Contemporary III: make us one
−3
翌日。
急な手配だったが、なんとか王宮の工事会社が入った。
まずは調査から行わなければならないため、地質学の専門家もいる。
広い王宮の地盤調査には様々な機器が用意され、あちこちで起動する。
アルレシアは王宮の中からその様子を眺めた。
「それにしても急だったね」
上司は隣に並んで窓から見下ろす。
「すいません。色々あって」
「君は意味のないことはしない。これもきっと、何か意味を成すんだろう」
上司は食えない笑みで窓を離れた。
突然世界会議へ行かせたのはこの上司だ。
アルレシアはその腹の底に何がいるんだ、とは言わないでおいた。
再び視線を下ろすと、中庭に機械が入っているところだった。
王宮の位置は昔よりずれており、今いる場所より少し奥があの国王たちを最後に見た部屋があった位置だ。
調査員が機械を動かずのをぼうっと眺めながら、アルレシアはイタリアの話を思い出す。
今にして思えば、ただの夢に何を真剣になっているのか、という気持ちも沸く。
だが、二人のおじさん、という表現が、偶然とは思えない。
イタリアは王政を廃止して長いから、すぐ王宮と言って浮かぶ建物はない。
王宮に使われた建物自体も多いのだ。
偶然にしては出来すぎなことばかりだ。
それにしても、捜索をして何が有るというのだろうか。
目的については言っていなかった。
捜索を行った先に、何があるというのか。
それすら分からないことに、ますます馬鹿らしくなる。
王宮の急な工事はニュースでも報じられ、見学の取り止めなどは観光会社から苦情が来ている。
王室広報も苦し紛れの言い訳をしている。
「これでなにもなかったらあのくるん三時間くらい引っ張る」
ただ、一度引っ張ったときに「次に引っ張ったら食べちゃうからね」と言われた気がする。
どういう意味かは分からない。
イタリアのジョークだろうか。
そんなことを考えていると、にわかに騒がしくなった。
中庭を見ると、調査員たちがざわついている。
アルレシアは窓を開け身を乗り出した。
「どうかしたか?」
「アルレシア様!謎の空間がこの下にあります!」
アルレシアは驚いて目を見張る。
「すぐ掘り出せ!」
「は、はい!」
アルレシアの剣幕に、調査員たちは慌てて業者を呼びに行った。
「いったい何が…」
心臓の音が、耳のすぐ近くで聞こえた。
***
夕方には中庭は掘り起こされ、謎の空間が姿を現した。
前の王宮の地下室だけが残っていたようだ。
「こんな空間、昔の図面にはなかったぞ…」
業者が訝しむが、アルレシアにはなにか分かっていた。
「隠し部屋だ。前の王宮にはたくさんあった」
あの夜、兵士とともに王宮を脱出したときにも使用した。
そのような空間のひとつだ。
「扉があります!」
「俺が行こう」
アルレシアは地下に降り、調査員と代わる。
調査員たちもどこかワクワクとしていた。
思いがけない発見だからだ。
アルレシアは扉に手をかけ、力を籠めて押した。扉はゆっくりと開き、途端に異臭が香る。
そして中を見ると、横たわるなにか―――
「っ!全員戻れ!防護服着用!」
アルレシアは扉を閉めてそう叫んだ。
調査員たちは急いで地下を出ていく。
全員離れたことを確認してから、アルレシアは再び部屋にはいった。
部屋は10畳ほど、壁には空っぽの棚がひとつあるだけで、他には何もない。
そして部屋の真ん中には、服を纏って横たわる骸骨があった。
服は見間違えるはずもない、あの当時の首相のものだ。
部屋には可燃性ガスや毒をもつ菌がいる可能性があるため、慎重に進む。
国であるアルレシアだから生身で入れるが、服も携帯もすべて処分し入念に洗浄しなければならないだろう。
アルレシアはゆっくり遺体に近付き、その姿を眺める。
「ここに…いたんですね…」
国王も首相も遺体は見つかっていなかった。
爆弾の直撃によるものだと考えられていたが、首相は直前に脱出したのだ。
だが火災に巻かれ、咄嗟に逃げ込んだこの部屋で一酸化炭素中毒かなにかで亡くなった。
ふと、遺体の右手がなにかの紙を握っているのを見つけた。
骨だけになり、隙間から取り出してみる。
「…、これは…」
紙の装飾は今も使われる、勅令用のものだ。
慎重に開くと、勅令第2号と書かれている。
「2号?前の国王はひとつしか勅令を出していないはず…」
そのひとつこそが、ドイツとの不可侵条約を破った際に国交を恒久的に断絶するというものだ。
内容に目を通すと、アルレシアは絶句する。
『勅令第2号
第1号の内容を破棄する。戦後、ドイツとの建設的な関係により、相互の発展を目指すものとする』
――――国王は、すでに手を打っていた。
あの夜、ドイツの侵攻が始まったとき、国王は仕事があると言っていた。
この勅令の発表だったのだ。
首相は、これを発表するために脱出しようとして。
間に合わなかったものの、ずっと紙を守ってくれていた。
火災にやられていたら、現代まで残らなかっただろう。
―――あなた自身の幸せを願っているよ
「…っ、ありがとう…!」
アルレシアはたまらず涙をこぼした。
ずっとずっと、暗いこの部屋で、この国の未来を守ってくれていた。
骸骨になっても、その手に握りしめて。
2か国が、永遠に引き離される未来を避けるために。
本当に最期まで、アルレシアを守ろうとしてくれていたのだ。
「うっ…く、…遅くなって、すみません…っ、ふ、ありがとう、ございました…っ!」
防護服を着た調査員たちがやってくるまで、アルレシアは涙を流し続けた。
そしてこの勅令は直ぐ様世界に発表され、多大な驚きとともに広がっていった。