Middle Age I: the Ruler of North Sea
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スウェーデンとの商談を終えたアルレシアは、王宮を離れ都の中にある森の中を歩いていた。
考え事をするときはここを歩くのが癖になっている。
「実際問題、キリスト教じゃないのは不便っつーか…」
先ほどの商談でも、日付の表し方が異なるせいで混乱が起きた。
使用する暦が違うのは中継貿易の妨げである。
「暦だけ取り入れるか…フランスたちは今1200年代つってたし」
金のためなら割と色々受け入れる上司だ。スムーズな貿易はスムーズな金稼ぎに繋がる。
「おい、てめぇどうせならちゃんと受け入れろ!」
「えっ」
突然背後から声とともに殺気を感じた。
アルレシアはとっさに横に飛び、素早く相手を確認する。
アルレシアがいた場所には剣が振り下ろされていた。
その持ち主は、まだ年端もいかなさそうな子供。一目で同類と分かる。
「…ずいぶんなご挨拶だな」
「はっ、やるじゃねーか。さすが、全盛期のローマ帝国を追い払っただけあるな」
「どうも。君は誰だ?見たところゲルマン系のようだけど」
銀髪に赤い目、白いマントの服に描かれる黒い十字架。
「ドイツ騎士団―――プロイセン様だ!」
アルレシアはなるほどな、と呟く。
十字軍の中で生まれ、次第に東方植民に参加しエルベ川以東を支配するようになった者。最初は聖母の名を冠する医療系組織だったのが、やがて武装し、礼拝者の警護から異教徒への改宗へと任務を行うようになった。
ハンガリー王国のトランシルヴァニアで一時的に領邦を築いた後、ポーランドのプロイセン地方に騎士団領を持った。
まだ幼いが、ハンザ同盟と仲良くし、豊かなケーニヒスブルクなどを所有する好条件を考えるに、すぐでかくなるだろう。
鋭い目つきは、大物になる予感を与える。
「何の用?人ん家押しかけて切り付けるなんて」
「東の果ての国やオリエントの国ならまだしも、これだけ教皇庁に近いお前が異教徒だなんて認められるか!」
「そういう…あのなぁ、俺が改宗しても国民がいきなり全員改宗するわけじゃない。逆に言えば国民が改宗しなきゃ俺も改宗できない。だから俺に言うのはお門違いだ」
「うるせぇ!」
話を聞く気はないようだ。
プロイセンは剣を振りかざす。
アルレシアは最小限の動きでそれを避ける。
まさか都で襲われるとは思っていなかったため、丸腰だが、まだ何とかなるだろう。
(にしてもこのふてぶてしい目…)
攻撃を避けながら、プロイセンを見据える。
(確実に将来、厄介な相手になる…)
「まぁ、今はそんなことないけど」
アルレシアは落ち着いてプロイセンの攻撃を前方に動いて避ける。いきなり距離を詰められたプロイセンは目を見開いた。
「うぐっ…!?」
「動きが甘いな」
アルレシアは拳をプロイセンの鳩尾に叩き込む。倒れたところをすかさず剣を奪い投げ捨てた。
そして首に手をかけ、そのまま地面に押し付ける。
「がはっ…!」
外見こそ幼いが、こいつは強い。
油断する気はないし、この先を考えるといったんぶちのめすのが最適だった。
「騎士道精神に誓え。俺に何かを押し付けるな。俺の国の民を傷付けるな」
「だ、れが…!」
「誓えないか」
アルレシアは首を絞める力を強める。
「後ろを取ったお前に騎士道の勇武はないか。それなら誓えないな。勇武があるというならここで人生を終えることだ」
「く、そ…!」
「東方の民を捨てここで息絶えるか。未来の繁栄のために俺と誓うか。どちらを選ぶ」
「…ぐ、はぁ…っ、誓う…お前にも、お前の民にも手は出さない…っ、正規のやり方で布教する、と、誓う…!」
「…よし」
それを聞き届けて、アルレシアはようやく手を放した。
「げほっ、げほっ、…!」
激しく咳込むプロイセンに、わずかな罪悪感が首をもたげる。
しかしこいつの行いは、アルレシアだけでなくドイツ騎士団領の人々をも危険に晒す。
とはいっても、早々に対話を諦めたのは、本来優勢であるアルレシアだ。
(…ちょっと、やりすぎたか)
「悪かったな、乱暴して」
アルレシアはプロイセンの頭に手を乗せる。さらさらとした銀髪を撫でると振り払われた。
「てめぇ、子供扱いすんな…」
「ん?」
だが笑顔で目だけで睨めば、プロイセンはびくりと肩を揺らした。
「か、帰るっ!」
立ち上がり、プロイセンは慌てて踵を返す。
「忘れ物だ」
アルレシアは先ほど放った剣を投げた。プロイセンは危うげにそれをキャッチする。
「うおっ、…あーくそ、次は覚えてろよ!」
「普通に交易すんならいいぞー」
今度はちゃんと笑って言ってやると、プロイセンは顔を赤らめた。
「っ!、だ、誰がだ!ばーか!」
そう言い残し去って行った。
「…なんで赤くなったんだ?挑発と思われたか?」
どちらにしろ、
「ちょっとは俺も成長したかな」