Middle Age I: the Ruler of North Sea
−普憫襲来
中世の西欧封建社会が安定期に入ると、内外へとヨーロッパ世界は拡大を始めた。それは近世の大航海時代に比べれば微々たるものではあったが、後に欧州の世界への飛躍を支える下地となる時代であった。
この時代、ヨーロッパ世界全体を統一するように存在していたのはキリスト教だった。
西欧ではローマ教皇が最高権力者で、反抗した神聖ローマ皇帝が破門され、教皇に謝罪をさせられるという「カノッサの屈辱」事件などが起きたほどである。
こうしたキリスト教の絶大な権勢が、欧州の拡張を進める要因となった。
中国文明の北方、遼に追われたウイグル人がトルキスタンに侵入し、そこから玉突きのようにトルコ系民族たちが中東に流入すると、その中のセルジューク朝がビザンツ帝国を圧迫し、イラン系のクルド人であるサラディンはアイユーブ朝を建ててエジプトからイェルサレムを支配した。
そのため12世紀頃より、十字軍が東方正教会のビザンツの応援と聖地奪回のため遠征を行った。
また、ドイツ地域では長子相続の文化の影響で相続にあずかれない次男以下の男子たちが行き場をなくし、エルベ川以東への東方植民に参加したり、修道院に入って大開墾運動に加わったりするなど、キリスト教勢力による拡大を促進する原動力となった。
そうしたドイツ地域の相続のできなかった男子たちは、こうした運動の他には傭兵になるしか道はなく、十字軍やイタリアにおける神聖ローマ帝国派と教皇派との都市戦争に参戦していた。
三圃制という農業技術の発展がもたらした人口増大がこうした男子たちを多く生み出し、それがキリスト教世界の拡大志向と合致したことによる偶然性の高い現象だったといえる。
そんな中、北海に浮かぶアルレシアにもその流れが押し寄せていた。
「アルレシア、いい加減キリスト教受容しようよー」
フランスがアルレシアの肩を組みながら頬を突いて言う。
「しつこい」
「そうだぞフランス、そんな無理にやるもんじゃねぇ」
イギリスも現れフランスを窘めるが、イギリスだって散々勧誘してきていた。
「俺を勧誘しても意味ないだろ。国民が受け入れたらそれでいい。受け入れないなら俺も従う。それだけだ」
「相変わらず男前なんだから」
フランスは今日は諦めるのか、肩を外す。
そもそも、アルレシアはすでに何度かアルレシアへの十字軍を北海に沈めている。教皇の要請に基づき、フランスやイングランド、神聖ローマ帝国の連合軍からなる十字軍が、貧相な船に乗ってやってきたのは記憶に新しい。
しかし、ノルマン戦争でノルマン人たちを破り、その勢力を利用して築いたレガリスタード朝はあまりにしたたかだった。
3回ほどやって来た十字軍はすべてアルレシアが倒して、3回目では3か国の沿岸に対する報復攻撃をちらつかせ、ついにそこで黙らせた。
ちなみに、布教を強要する勢力との戦いで東方のリトアニアと仲良くなった。異教徒どうし頑張ろう、と手紙のやり取りをしていたのに、ポーランドと合同するときにあっさり改宗したことは現代でもアルレシアが根に持っていることのひとつである。
「でも〜、聖なる十字軍にあんなことするなんて、天罰が下るよ?」
「聖地奪回やめてコンスタンティノープル占領したくせによく言うな」
「うっ…」
そこは耳が痛いフランスとイギリスである。
「あれはその…ヴェネチアがだな…」
イギリスがごにょごにょと言い訳を漏らすがアルレシアは聞かない。ビザンツ帝国はもう虫の息だ。
「スウェーデンと商談があるから帰るぞ」
アルレシアは二人に手を振ってさっと帰って行った。
「最近がめつさ増してない?」
「お前と意見が被るのは癪だが俺もそう思う」