Early Modern I: the crown oversea
−渡るイベリアは鬼ばかり
15世紀に中世が終わり、そこから近世が始まると、ヨーロッパは矢継ぎ早に様々な変化を経験する。
まず最初にインパクトを及ぼしたのは、ルネサンスの始まりである。ローマ時代に砂に埋もれたラオコーンという彫刻がローマにて見つかり、その写実的な様相はイタリアの芸術家に激震を走らせた。
帝国の崩壊によって文明を失った西欧は、長らく世界でもっとも立ち後れた後進国だったのだが、芸術も抽象的でのっぺりとしたものばかりだった。それが、1000年前のギリシア時代に始まる古典欧州文化の先進性に触れたことで、失っていた文明を取り戻したのである。
こうして古典の芸術を再興するため過去の文献の捜索が始まった。それは芸術から文学へ拡大し、文学のための文献研究は科学技術の本の発掘をもたらして、さらにルネサンスは科学技術へと広がった。
世界は地図通りの四角で、端に行くと落ちてしまうというファンタジーに生きていた人々に、かつて古代ギリシアは地球が球体でその直径は4万4千kmと分かっていた事実は衝撃だった。実際は4万kmである。
また、原始キリストの発掘によって、ルネサンスは宗教改革をももたらすことになる。
一方で、モンゴル時代に世界最先端の中国から火砲、羅針盤、活版印刷が伝わり、欧州でアレンジされた。マルコポーロの『東方見聞録』は最新印刷によって広く読まれるところとなり、航海法や造船技術も飛躍的に発展した。
これらルネサンスの技術躍進は、ビザンツ帝国崩壊で亡命してきた東方の科学者によって支えられた。
イベリアの人々は数百年続いたレコンキスタが生活様式となっていたため、布教にかこつけた戦争の代わりを求めており、ドイツ地域では人口増大と百年戦争の終わりによって人手過剰が深刻化。
欧州はまさに、様々な要因が重なって破裂寸前の風船のようになっていた。
そこへ、オスマン帝国がシルクロードの封鎖による欧州の封じ込めを開始した。
経済的にも欧州は拡大を余儀なくされ、イベリアの人々が中心となって、ついに大航海時代が始まる。
***
「なぁアルレ、ちょっと聞いてくれへん?」
スペインが最近、アルレシアの家をよく訪れるようになった。
またか、と思いつつ、将来いい商売相手になるだろうから付き合うことにする。
「なんだよ」
「あんな、ポルトガルが最近調子乗ってん」
「あー、儲けてるらしいな、南海だか東方だかの国との貿易で」
「そうなんや。香辛料仕入れてヨーロッパ中に売り歩いとるんや」
「知ってる、この前スペインに聞いたからな」
「そうやった?」
ずっとこの調子である。
しかもポルトガルが気に食わないような口ぶりをしながら、さほどそんな様子ではない。
「お前、ただ話すの楽しんでるだけだろ」
きっと、誰かを嫌うことが苦手なのだ。そういうことが性に合わないであろうことは容易に想像がつく。
「まあそういうんもあるなー。でも、最近ほんまポルトガルが自慢げなんや」
「なに、金ありますよアピール?」
「そっ!誰のおかげで独立できたと思うとるんやって話やねん」
「みんなで頑張ったんだろ」
「……そうやった」
すぐ認めたスペインに苦笑が漏れる。
(純粋なやつだな)
図体はでかいが、まだまだ若い方だ。
フランスより少し年下かどうかというところだろう。
すぐこうやって間違いを認めるのはいいところだと思う。
「せやけど、頑張ったナバラとかも生意気になってきよって…どないしよ、一応俺がスペイン王国なんにバラバラや」
「神聖ローマよりマシだって。最近は落ち着いて来たけどな」
「オーストリアが頑張ってるんやってね。あー、そんなら俺も頑張るかぁー」
「お前も海出ればいいのに」
「俺も思ったんやけどな、やっぱ金かかるさかい、上司が興味ない以上無理やねん」
「そっか、興味ないのか…まっ、しばらくはポルトガルにでもナバラにでも弄られりゃいいじゃん。人生経験だと思ってさ」
「うぅ、他人事やと思って…」
渋い顔をするスペインに笑って、アルレシアは立ち上がる。
「いつでも話は聞いてやるよ」
「…、反則…」
ぼそ、と呟いた声は聞こえなかった。