Early Modern I: the crown oversea
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そんな話をしたのはつい先週のこと。

しかし間隔を置かず再びスペインは現れた。


「アルレー!」


こいつ暇なのか、と舌打ちをしそうになるのを我慢して出迎える。


「ちょっと聞いたって!上司が!仲!悪すぎなんや!」


半泣きでアルレシアに抱き着くスペイン。図体はアルレシアよりでかい癖に鬱陶しい。


「あー分かった、分かったから離れろ」


無理矢理引きはがし、家の中に通す。


「あー、アルレの匂い落ち着くわぁー…ええなぁ…」

「お前最近変態スキル磨いてるだろ」


一発拳をお見舞いしてから、ワインを出してやる。スペインの筋肉に阻まれて大したダメージは与えられていない。


「いたた…」

「ほら、これ開けてやるから」

「わ!こんな高いやつ開けてええの?」

「高いのか?」

「あ…金持ちやったね…」


中継貿易で莫大な富を築き、国が大いに繁栄しているアルレシアは、今フランドルに匹敵する経済規模を持ち、大国として北海に君臨している。


「ええなぁ……」

「で、どうしたんだよ」

「あっ、そうやった!」


何やら言った気がしたが、ワインを開けていて聞こえなかった。スペインももう一度言うつもりはないようだから気にしない。


「うちの上司夫妻は、結婚したときから仲悪かったんや」



スペインは話し始める。



***



スペイン王国は、レコンキスタの中心となったカスティリヤ王国とアラゴン王国が合併してできた国だ。

その二つの王国は非常に仲が悪かったが、イスラム政権を前に協力する他なかったのだ。イベリアの最後のイスラム王朝であるナスル朝は、莫大な富を持つ強国で、イスラムの最高峰の建築であるアルハンブラを築いたほどでかったからだ。

そうして1479年、二つの王国の王女と王子が結婚し、国は一つになった。二人の結婚を描いた絵画は、いずれも嫌そうに指環をする姿であることが多い。
この2か国の不仲は、現代のマドリードとバルセロナのサッカーチームの戦いに見てとれる。非常に白熱したゲームは、まさに戦争の代わりなのである。

そして二人が結婚してからもレコンキスタが完成してからも仲は良くならず。

ある時は、


「スペイン、グラナダに言って布教の様子を見てきいや」


と元アラゴン王子フェルナンドに言われ。

そうしたら、


「スペイン、出掛けんで王宮で貴族を監視して」


と元カスティリヤ王女イサベルに言われ。



「フェルナンド様に「あの人の名前を言わんといて」」

「イサベル様に「その名前を口にするんやない」



と取り合ってももらえない。

少なくとも片方の命令に背かなければならないスペインは、いったいどうしたらいいのかと頭を抱えた。



結局、部下をグラナダに行かせ自分はマドリードの王宮で貴族たちの言動を監視した。

だがそんな方法がいつでもできるわけではないのは分かっている。いったいどうしたらこの状況を変えられるのか。


結果、一週間で思考を放棄した。



「それで俺のところに来たと」

「せや!」


なんとまぁ、面倒なことだろうか。
同情はするが、どうしようもない。


「…頑張れ?」

「え!それだけなん!?」

「俺にはどうしようもないからな」

「んな薄情な…」


本気で落ち込むスペインに、アルレシアも罪悪感は沸く。
とは言っても、他国に干渉はしない主義であるため、どうすることもできない。


「あー…悪い、ちゃんと励ましてやる」


アルレシアはスペインの隣に膝立ちになると、スペインを抱きしめた。
胸の位置に頭が来るから、心臓の音が聞こえているだろう。


「…これええな、落ち着く」

「そうらしいな」

「アルレはやってもらったことないん?」

「…、俺は、それが必要なとき一人だったからな。今でこそ、何のつもりかやりたがるやつはいるんだけど、必要ねえし」

「えっ」


スペインは顔を上げる。翡翠の瞳が見上げてくるのは珍しい位置だ。


「どうした?」

「一人、って…」

「あぁ…永く生き過ぎた、それだけだ」

「…う、アルレのが大変やったんやな…!」

「ちょ、おま、なんで泣いてんだよ!」

「なんか悲しくなってもうて…堪忍なぁ…」

「あーもーまったく」


アルレシアはスペインをよりぎゅっと抱きしめる。感受性豊かというか、こういう底ぬけの優しさはスペインの魅力だろう。


「そんなんじゃやってけねえぞ」

「ん、平気や…俺頑張る!…せやからアルレ、」


スペインも膝立ちになり、アルレシアと同じ目線になる。


「…キスしたって?」


甘く、目の前で囁かれる。

美しい瞳に見詰められ、吸い込まれそうに感じる。顔に熱が集まって、心臓が早鐘を打って。


そして――――殴った。


「ふぐぅ!?」

「アホか!」


さすがラテンと言おうか。

ここまであからさまに迫られたのは初めてだ。慣れないことに心臓がうるさく音を立てる。

心配して損した、とアルレシアはしばらく臍を曲げたままだった。




一方その頃。


「女王陛下、」

「夫はなんて…?」

「断る、と」

「そないですか…なら、私が出しましょう」


一人のジェノヴァの船乗りが、スペイン女王イサベルの協力を得た。

夫フェルナンド王が断ったことを理由に、資金協力を許可した船乗り――――彼の名を、コロンブスと言う。


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