Early Modern I: the crown oversea
−4



「じゃあ、なんであんなことしたんだよ」


オランダの家にいたときのことを言えば、目を逸らされる。使用人の言動や、植民地のような扱い。


「…嫌いやと、思っとったからや」

「は…?」


今度はオランダがこちらを直視する。


「お前、俺に嫌われる覚えない言うたな」

「あぁ…」

「…ほんまに、分からんのか」

「だって、何かした記憶ねえし。むしろ、貿易中はお前は余計な話嫌いかと思って、他のやつより丁寧に対応したつもりだったんだけど」

「……なん、やと?」


オランダはなぜか驚愕の表情だ。先程からオランダの表情の変化が激しい。


「ほんとだからな。オランダは金のことばっかだったから、フランスやデンマークにするような会話の仕方じゃ嫌われると思ってさ」


もともと貿易関係ではあったが、オランダは効率を重視して余計なことは喋らない。だから、アルレシアは合わせていたのだ。
それを聞いたオランダは、しゃがみ込んで俯いてしまった。


「えっ、ちょ、オランダ!?」


いつにない姿に慌てるアルレシアに、くぐもった声が返る。


「…過去の自分ぶん殴りたいだけやざ」

「ん…?」


状況が分からない。
するとオランダは立ち上がり、一歩こちらへ近づく。


「俺は、先にお前が俺を避けとるんやと思っとった。態度が俺にだけ冷たかったてな」


アルレシアもオランダのカミングアウトに目を見開いた。
気遣いが裏目に出たということだ。


「ほやさけ、嫌いになったんや。いや、嫌いになったと思うたんや」


ほやけど、とオランダは話を続ける。懺悔のような、独白でもあった。


「まともに話さない、目も合わせない、ほんなん、話したい、抱きしめたいっちゅーことの現れやったんや。意地張っとった、わらびしかったんやざ」

「…ガキか」


思わず呟くと、オランダも気まずそうに顔を背けた。あまりに自覚しているのだろう。


「勘違いであんな目に遭わされたわけな」

「…すまん、かった。許しておくんね…」


しかしまぁ、なんともお若いことだ。
急に微笑ましく感じ、アルレシアは笑う。それに、オランダのことを大人として見すぎていたことも、反省すべきだろう。


「いい、許す。なんてったって俺は年上だからな…その代わり」


きょとんとするオランダに、アルレシアは抱き着く。背の高いオランダにそうすると、アルレシアの鼻が鎖骨あたりにくる。ちなみに現代にはもう少し差が開くことになる。


「慰めろ。…今日めっちゃ怖かったし。お前んとこいたとき超つらかったんだからな」


戸惑うオランダだが、アルレシアの背中に手を回す。体温が低いのか、心地よい温もりだ。


「…俺ん家は、みんな優しくて、明るくて、身分に関係なく笑い合ってた。だから、オランダん家でオランダにも使用人にも冷たくされて、一人にさせられて、すごく寂しかったんだ…悲しかったんだ」


ぐりぐりと肩口に顔を押し付けるアルレシア。
その傷がひどく深いことに、オランダは心が激しく痛んだ。スペインから聞いていた、古い国であるがゆえのかつての孤独も思いやられて、それを強いた自分が許せなくなる。


しかし、オランダが自分の気持ちを自覚したときにはもう取り返しがつかないところに来ていて。

スペインという強敵が現れて。

そして人さらいに連れて行かれたと聞いて、体の中に氷の塊が落ちたような、足がすくむ感覚に溺れた。
失いそうになってようやく、気持ちに素直になれるなど。

あぁ、自分はこの人のことがどうしようもなく好きだ。愛おしい存在だ。

ずっと目で追っていた人だから、避けられたと感じたときの失望が計り知れず、その痛みを嫌いという感情だと誤った。


「…、ぅっ、…っ!」

「アルレ……」


アルレシアは気丈にいつも振る舞うけれど、今までのことと今日のショックに耐え兼ねて、オランダの腕の中で嗚咽を漏らす。アルレシアが人前で泣いているところなど見たことがなかったし、他の奴らからも聞いたことがなかった。

その大きな部分が自分のせいなのが悔しい。


もう、こんな気持ちにならない、させない。

アルレシアを傷付けることはもちろんしないし、できる限りを尽くして守ろう。


オランダはそう心に固く決めた。


35/127
prev next
back
表紙に戻る