Early Modern I: the crown oversea
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一方アルレシアは、どこかの廃墟の中にいた。
天井には梁しかなく、床には瓦礫が散らばり、窓には蔦が這っている。瓦礫の向こうに見えるのは昔の城壁で、とても助けが来てくれそうなところではなかった。
「まぁ、あん中で一番の上玉やったからまだ良かったなぁ」
男たちは笑いながら手を後ろで縛られたアルレシアを見下ろす。
椅子に座らされ、腕と足をくくりつけられていた。
口振りからして、やはり人さらいだったようだ。
国であることを言おうか迷ったが、それを付加価値と見られては困る。
人質としてなにかを要求されるなどの方々への迷惑も考え、何も言わなかった。
「にしてもほんま綺麗な顔やなぁ」
男の一人がアルレシアの顎を掴む。熱い体温がひどく不愉快だ。
「こいつなら俺もいけるかもしれん」
「俺もや」
「おい商品に手ぇ出すんやないぞー」
「いっそ俺らんペットにするか?」
「それもええな!」
下卑た笑い声をあげる男たちに吐き気がした。宗教改革の対称でもあった同性愛は、広く民衆にも広まっていたとされる。
「ま、ちょい味見」
そう言って男はアルレシアに口を近付ける。逃げようにも顎を掴まれどうしようもない。
「やめっ…!」
「そこまでや」
場に低く凛々しい声が響いた。
久々に聞く、その声。
廃墟の入口には、息を切らしたオランダが立っていた。思いがけない、まさか来るとは思っていなかった人物に、アルレシアは目を見張る。
「オランダ…?」
「なんやお前!」
思わず呟いてしまった声は男の怒声と被り、オランダの正体がバレることはなかった。
「何でもええ。ほれより、こいつは返してもらうで」
返事も聞かず、オランダは問答無用で男たちに殴りかかる。丸腰ながら、重い蹴りとパンチが一撃で男たちを沈めていく。
「っ、この野郎!!」
「オランダ後ろ!」
動けないアルレシアが声を上げると、オランダは咄嗟に後ろから伸びる腕を掴み、思いきり地面に引き倒した。
さらに短刀を持った男が切りかかると、その手首を掴んで間接に膝蹴りを入れ、ナイフを落としたところで頬を殴り飛ばした。
その余韻を使って体を捻ると素早く視界を移し、横から迫る男の顎を蹴りあげる。
やがて、廃墟から起き上がる男はオランダを除いていなくなった。
彼らを一瞥すると、オランダはアルレシアの元まで来て縛るロープを解く。椅子に座ったまま、今までにないほど近付いたオランダに小さく礼を述べる。
「…ありがと」
「……」
しかしオランダは、何も言わず、アルレシアに背を向けて歩き出そうとする。
「おいオランダ、なんで嫌いな俺のこと助けたんだよ。そんな嫌うんなら、なんで」
思わずアルレシアは、そう聞いていた。今しかないと直感したのだ。
動きを止めたオランダは、たっぷり間を溜めて振り返る。
「…嫌いや、ない」
その目はいつか見た悲しそうのもので。
アルレシアは自分まで悲しくなるのを感じた。
何がオランダにこんな顔をさせるのか。それがアルレシアに関係していることは確かだ。
今まで、こうやって国の誰かに嫌われるのは初めてだったため、アルレシアとてどうすればいいのか分からなかった。