Early Modern II: cannot be independent
−変革と板挟み
人さらいにさらわれかけた事件から、このスペイン一家はアルレシアに過保護になった。
まずスペインはふもとの街に人さらいの検挙を命令し、アルレシアやロマーノ、ベルギーを外に出すのを躊躇った。
ついでに言うとやたらくっついて来る。
ベルギーもやたらベタベタとして来たり、ワッフルをしょっちゅう作ってくれた。毎日のようにスペインのチュロスやベルギーのワッフルを食べているため、太りそうだと危惧している(結局太らない)。
ロマーノは『アルレシアを守れるように強くなる!』と言って何やら鍛え出したが、効果のほどは甚だ疑問だ。
ベルギーがくっつくとロマーノもくっついて来ることが多い。
そしてオランダは、今まで話しもしなかったからか、ずっと一緒にいる。
行く先々にストーカーよろしくついて来るだけだが、そのついでにたくさんの話をして、何かと気が合うことが分かった。
結構がめついところや、好きな文学、画家などだ。
時々会話しているとスペインが邪魔することがあるのが謎である。
そんな穏やかな暮らしを送っていたが、ヨーロッパでは大きな変革が始まっていた。
カトリックの腐敗に対して、宗教改革が起きているのだ。
神聖ローマ帝国内の領邦やスイスのジュネーヴから、大きな潮流となってヨーロッパ各地に伝播している。
その流れで生まれた新たな宗派とカトリックとの間で争いが各地で勃発し、混乱が発生していた。
北欧やイギリスは比較的穏やかに新教徒の国になったのに対し、ベーメンやフランスでは内乱状態に陥っている。
オランダも国民、特に商人の間で新教徒が増えているらしい。
そもそもキリスト教が普及していないアルレシアにはあまり関係がなかった。
そんな中で、スペインの上司が変わった。
1556年に即位したフェリペ2世は、熱心なカトリック教徒らしい。
西欧に広がる宗教改革を疎ましく思っているようで、激務の間に気にかけているようだった。
「ほんますごい人やで、」とスペインは言っていた。
何でも、ただっ広い執務室は壁一面が本棚に覆われ、そこには地域ごとにデータや近況がまとめられて収まっており、それを仕事中確認したり編纂したりしているのだそうだ。
これだけの海外領土を持つ国だ、そうなるのも分かる。
その隙間を縫って新教徒の対策を考えているらしい。
「スペイン、確かさ…新教徒って、オランダに多いよな」
上司の話をするスペインに言えば、スペインも顔を曇らせていた。
「あんま無理なことせんで欲しいなぁ…」
それが叶うことはなかった。
富の貯蓄を禁じるカトリックを辞め、神の栄光の元にそれを許す新教徒になったオランダ人。
スペイン政府はそれに対し、ネーデルラントの自治を奪い抑圧策をとったのだ。
抑圧が何も生まないことを、アルレシアは直に見てきた。
―――かつてのローマ帝国のように。
アルレシアは被支配者だ。
スペインの上司を止めることなどできない。
無力な自分に嫌気がさした。
***
「アルレ、俺らはあいつと戦う。お前はどうすんねや」
やはりこうなるか。
アルレシアは真剣な面持ちのオランダとベルギーから目を逸らす。
元から不満が溜まっていた彼らの上司は、反旗を翻すことにしたようだった。
アルレシアの家は元からキリスト教が広がっていないため、スペインからの抑圧は感じない。上司も沈黙している。
今だアルレシアとネーデルラントは血筋的には繋がったままだ。オランダたちと戦えば国民に死者が出る。
しかし戦わなければアルレシアの帰属を巡り新たな争いが起きるだろう。
幼いロマーノを残し三人でスペインと戦うのも気が引けるし、何よりスペインは絶頂期にある。
「まだ考えさせてくれ」
悪い、と小さく呟いてその場を離れた。