Early Modern II: cannot be independent
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屋敷の中を悶々としながら歩いていると、執務室からスペインが姿を現した。


「あぁ、アルレか…」


笑顔を見せるスペインだが、その顔はひどく疲れている。やつれたようにも見えた。


「どうした、そんなに疲れて」

「まぁな、親分やさかい、いろいろ大変やねん」


アルレシアはそれが心配をかけさせまいとしているだけなのが容易に分かった。きっと、宗主国としてのプライドもあるだろう。

こいつも大人になったんだな、と爺くさいことを考えた。
放っておくのも必要なことではあるのだが、今はいろいろと大変な時期だ。

ここはアルレシアが動いておくべきだろう。


「なあスペイン、百年くらい前に話したこと、まだ覚えてるか?」

「百年前?えーと…」


アルレシアとしては割と最近なほうだが、スペインは前を見るタイプだから記憶を引っ張り出すのに時間がかかるようで、しばらく唸っていた。

見かねてアルレシアは言葉を言ってやる。


「建国したばっかんとき、上司のこととかで悩んでたお前に言ったことだよ」

「あ…」

「話くらいは聞いてやるよって。俺ほどにもなると百年じゃ時効にはならねぇな」


いたずらっぽく笑うアルレシア。
スペインはあの時と変わらないアルレシアに、泣きそうになった。






「…オランダやベルギーにこんなことするんの、嫌や。アメリカでもどこでも、ひどいことばっかしとる。俺人が悲しむとこ見んの苦手や」


リビングのソファーに場所を移し、意気消沈とした感じでぽつりと話すスペインに同情する。
上司の命令でいろんなことをやってきたのだろう。

黒人奴隷を売買したり、先住民を圧迫したり。

今は同じヨーロッパのオランダたちに対してそれを行っているから、かなり心に来ているのだろう。


「俺たちに人格がある以上、避けては通れない。これも歴史なんだ」


肩を落とし首を垂れるスペインの頬に手を添える。


「お疲れ…大丈夫、みんなが幸せになれる時代がきっと来る。俺は最初の幸せまで七百年かかったけど…」

「せやな…アルレシアに比べたら幸せやんな」

「比べるもんでもねえけどな。俺とは違うのは、お前には守るべきもんがあることだ。今と、そして未来を。太陽が沈まないうちにな?」


きっとこれからまたスペインは傷つくだろう。世界が大きく動いていき、計り知れないような悲劇も起こるだろう。

でも、その分幸せもあるはずだから。
今はそれを目指して耐えてほしいと思った。


***


1568年。


ネーデルラントは、ついにスペインに対して独立戦争を開始した。オランダ八十年戦争と呼ばれる戦争は、ウェストファリアまで終わることはない。

スペインは疲れた体に鞭打ち、オランダへ向かう。


アルレシアはそれを見送り、リビングでロマーノを抱き抱えた。

ふとすれば、みんなで過ごした思い出が蘇る。



分かっていたことだった。
いつか、こうやってバラバラになるのは。

世界はそうやって変わって行くのだ。



アルレシアは、その流れの中で自分がどう変わって行くのか、まだ決めていない。


オランダたちと戦うのか、スペインの配下に留まるのか。どちらも戦いだ。

オランダが勝ったとき、一応オランダ領であるアルレシアの権利を当然オランダは主張するだろう。

だが、スペインもそれはするはずだ。
本土に戦火が及ぶのは避けたいが、スペインと戦うのは嫌だった。

なんだかんだと言って、あの底抜けに明るくて、真っ直ぐで、人を元気づける(おまじない=呪詛を除く)ことを天然にやってのけるスペインを、アルレシアは嫌いではないし、むしろ好きな部類と言える。


「どうしたんだこのやろ」


ロマーノが心配そうに見上げてくる。やはり、こういう空気には敏感だ。


「大丈夫」


一言、言い聞かせるように。

オランダたちのことは察しているのか、ただアルレシアの雰囲気に流されたのか。
ロマーノは嫌がらずにされるがままで、アルレシアに擦り寄った。








「そんな、そこまでせんでも…!」

「黙っとき。新教徒は根絶やしにせんと」


スペインは上司に懇願する。


「やめたって下さい、やないとオランダが潰れてまう…!」

「ええわ別に。神への冒涜、大罪は断罪されるべきや。その結果何万死のうが構わん」


上司はそう言い捨てて謁見の間を出て行った。スペインの願いもむなしく、新たな政策が施行される。


新教徒の処刑。

対象は数万人ではきかない規模だ。


「死ぬんやないオランダ…」


スペインは北を見て呟いた。


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