Ancient: Isolated Frontier
−ローマ爺ちゃんと
アルレシアの自我の目覚めは、およそ紀元前300年から200年の間だと思われる。
もともと、北海中央部は紀元前6500年代あたりまで大陸と地続きだった。その頃に大陸から人類が移住し始め、完全に陸地から分離されるとケルト人の移住が少しずつ行われるようになった。
その後、紀元前2600年頃からビーカー人と呼ばれる、ケルト人の一派ともされる民族が青銅器文明をもたらした。ブリテン島では彼らによる最初の先進的文化が生まれたが、アルレシア島はビーカー人がたどり着くのには遠く、そう数が多くなかったため依然として先住民の文明が色濃く残った。
やがてその文明が周辺民族との交流の中で独自の進化を遂げ、紀元前300年を過ぎた辺りから自我が芽生えた。
幼いながらも、紀元前1世紀のローマ帝国によるブリタニア侵攻を受けて防御を固め砦を築き、99年にトラヤヌス帝率いるローマ軍がやって来ると返り討ちにした。
その後、ローマは101年よりダキア戦争を開始したため、アルレシアはローマ帝国の属州ガリアとの交易で発展していった。
***
ところかわって古代ローマ、帝国はパックス=ロマーナ(ローマの平和)における最大版図を実現していた。
都ローマは栄華を極め、文化は後の時代に継がれていくほどの高度なものが熟しつつあった。
そのローマの中心で、美酒と美女に囲まれた豊かな体躯の青年。
彼こそが帝国を象徴する、いや、帝国そのものである、ローマ帝国その人だった。
「いやぁ、やっぱ酒と女だよなぁ!」
―――まさに、ローマ人。
しかし浮世にただ流されるだけで済む男ではなかった。
半島を統一しシチリアを属州としたその日から、征服事業は生きがいであり主要産業であった。
何代か前の皇帝によって和平したオリエントのパルティア帝国とはもう何十年も戦争をしておらず、敵対するのは周辺ではダキアくらいだった。
そこに、不完全燃焼な征服欲をくすぐられる、北方の島の存在が報告された。
ブリタニアの東、ガリアの向こう。
ケルト系とゲルマン系が混在し、ローマには遠く及ばないながら文明を持つその島へ。
ローマは思い立つなり、豪快に立ち上がった。
「どこ行くの?」
美女の囁くような甘い質問に、口元を緩める。
「本業さ」
戦争の甲冑に身を包み、シチリアからカルタゴ、ジブラルタルを経由して遥かガリアの北へ向かう遠征。一部はライン川沿いのガリア人やヒスパニアのガリシア人などによる部隊もある。
「ゲルマンでも誘ってみっかなぁ…無理か!」
ひとり明るく笑いながら、ローマは美しい街を歩く。
いったい何の勘なのか、この風景のほとんどがいずれ大地に埋もれる映像が頭に浮かぶ。
酒の飲み過ぎだ、と頭を振り、いざ大遠征を企てた。
北の海に浮かぶ島、アルレシア。
シチリアより一回り大きいくらいだという。
ガリアからブリタニアに渡り、そこから船を率いて東へ向かう。
兵力は十分。
休息もとらせ、上陸してすぐに周囲を制圧できるはず。
「アルレシア、見えました!」
声が上がると、ローマは真っ先に船の先頭へ走った。
甲冑の重さを感じさせない鮮やかな身のこなしで、揺れる船を船首へ移動した。
「おぉ!」
あれが、アルレシア。
アルプスほどではないが険しそうな山、広い平野。
都市は特に見当たらない。
「良好良好!野郎ども、準備はいいかー!」
呼応する雄叫びに血が沸き立つ。
高鳴る胸の駆動をそのままに、ローマは島を見つめた。