Early Modern III: bill rather than kill
−敗北



三十年戦争の間、アルレシアは武器を売る以外の干渉はせず、戦争が終結しても独立が正式に認められただけだった。オランダはスペインと再び開戦したものの、フランスやスウェーデンほど大規模な戦闘はしていない。

こうしてオーストリア・スペインの没落は決定的になり、イギリス、フランスが台頭し始める。

オランダはすでに17世紀初めからアジア貿易を独占し、莫大な富を得ている。アルレシアもその中継を担い、利益を上げていた。



しかし、1649年に成立したイングランドの共和政府は、さらなる貿易拡大と、当初からのオランダの妨害に乗り出した。



1651年、航海法成立。

イギリスとその植民地の船以外の船による貿易を禁止する、という内容だ。これに基づき、イギリス海峡においてオランダ船やアルレシア船が次々と拿捕され、その積み荷などを奪われた。



「あの眉毛野郎、許さん…!」

「沈めて北海広げてくれるわ!」


オランダ、そしてアルレシアは激怒していた。
ニヨニヨとする眉毛が目に浮かぶ。



「オランダ、俺は準備できてる」

「俺もやざ」







こうして、1652年、第一次英蘭戦争が勃発した。



まずはイギリス海峡の制海権を巡り、オランダとアルレシアは海軍を率いてそちらへ向かう。


「イギリス艦隊、見えました!」


見張り台から声が落ちる。
オランダの造船技術は高く、アルレシアは船をオランダから輸入。

そのため、二人の海軍は小型艦が主力だ。オランダ艦隊は、海底の浅さなどから大型艦を保持していないからだ。


一方のイングランドは大型艦。

さらに、


「なんだあの陣形は!?」


単縦陣という、縦一列に戦艦を並べる陣形で迫ってきたのだ。海戦では、船は横向きに睨み合い、横に設置された砲台から砲弾を撃ち込む。

撃ち合いの始まりは、双方が平行に並んでから。


そこで、二人は状況に気付いた。


「やられた…!」


縦に並ぶ大型艦は先まで続き、戦うときにはその列全てから砲弾を食らうことになる。
相手を倒すには近付くしかないが、近付いたら延々と砲弾を浴び続けてしまう。こちらは小型艦で、距離も尚更近くなければならない。

それでも、戦わなければならない。
イギリスは列の先頭の船に立ち、こちらを不敵に睨みつける。


「…オランダ、あいつ、直接殴る」

「なんや、そんな興奮して」

「いや、あいつ調子乗ってっからさ。勝ち負けはどうでもいい、殴る」


アルレシアはそう言うなり、剣を構える。理屈ではない、どうしても殴りたい相手がいるのだ。


同時に、二人の乗る船とイギリスの乗る船が、平行に並ぶ。


「撃て!」


オランダが叫ぶと、こちらから先に砲弾を放った。向こうも撃ち始め、とうとう戦いが始まる。

船のあちこちが轟音とともに弾け、木が折れて散る。吹き飛ばされた兵士が悲鳴を上げて倒れ、衝撃で床が揺れる。ロープが唸る、窓が割れる、船の側面が爆発する。

オランダは衝撃を上手く避けながら指示を出していった。

ドン、と砲弾の一つがマストの根本に当たると、マストがゆっくり傾き始めた。


「きた、」


そこでチャンスを窺っていたアルレシアは銃剣を構え、倒れていくマストに飛び乗った。


「アルレ!?」


オランダの驚いたような声が聞こえる。
円柱状の木のマストの上を、まるで普通の平面のように走る。マストはイギリスのいる船に倒れていき、ロープや帆が揺れながら空中を舞う。


「イギリスてめぇぇえ!!」


マストが船に直撃した衝撃が走る直前にジャンプし、銃剣の切っ先をイギリスに向けながら船に着地した。


「おま、なにやっ、」


イギリスもイギリスの船の兵士も驚いている。

しかしイギリスはさすがというべきか、アルレシアの攻撃に対して即座に銃剣を構えて応じ、辺りに鋭い金属の音が響いた。

すると突然、イギリスの船に衝撃が走り、側面から火の手が上がる。オランダからの攻撃だ。

船を繋いでいたマストは折れて海に落ち、アルレシアだけが船に残る。

国どうしの戦いということで、船上の兵士たちはオランダ艦隊との砲撃に集中を始めて干渉はしない。


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