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麓の街に降りると、昼過ぎという時間もあって、人々は賑わいを見せていた。
比較的この街は所得が高く、上流市民が多い。どことなく余裕があるように見えた。

それでもアルレシアは目立っていた。本人は気付いていないが、華美な服装と綺麗な顔立ちに、道行く人がすれ違い様に振り返っていた。


「おっ、ベルギー、あれ見てみろよ」


そんな目線など一才気付かずに、アルレシアは露店商のバラック屋台を指差す。
ベルギーはもう慣れたようにアルレシアの鈍感さに順応した。

指差す方向を見れば、屋台には色とりどりの宝石でつくられた装飾品が並んでいる。
しっかり本物だ。


「うわぁ、めっちゃ綺麗な小物がこんなにぎょうさん…!」

やはり女性、ベルギーはすぐさまその小物の数々に目を奪われた。


隣の屋台の機械小物に興味があるらしいルクセンブルクはそちらを見ているし、ロマーノは 少し離れた屋台のチュロスと美人な売り子の女性を凝視している。

そのため、アルレシアとベルギーだけで宝石商の 屋台を見ることになった。


並んでいるのはルビーやエメラルド、翡翠や金の髪止め、ブレスレット、ネックレス、イヤリングなどだ。


「すごいなぁ、アルレ兄ちゃん。コレとかほんまもんの翡翠やで!」

「さすがスペイン、中国産の交易ルートは確保したのか」


目の付け所が商人である。

その中でアルレシアは、周りの豪華な宝石や金塊の派手な装飾品に紛れて目立たない、小さな髪止めを見つけた。
髪止め部分は純金、その中心から金が円柱状に1センチほど付きだし、花の茎のようになっている。そこにルビーが花びらを模してくっつき、金を中心に 紅の花弁が囲む飾りになっていた。
花は直径にして10センチないくらい、だがその小ぶりな髪止めには緻密な細工が施されていた。


「これひとつ」


アルレシアは迷わずそれを購入していた。ベルギーはアルレシアが髪止めを見ている間にブラブラするルクセンブルクとロマーノを捕まえに行っていた。


「センスいいな、兄ちゃん」

「まあな」


屋台の主である初老の男が笑う。気さくだが余計なことは話さない。髪止めをそのまま手渡し、アルレシアも金貨を渡した。

会計を終えて、アルレシアはベルギーたちのところへ向かう。
ルクセンブルクたちに勝手に行動するなと小言を漏らす様は、まさに姉貴だ。


「ベルギー」

「あっ、アルレ兄ちゃんごめん置いて行ってしもうて」

「や、それは構わねえよ。それより、これ」


アルレシアはキョトンとするベルギーに髪止めを手渡す。屋台の大きな装飾品と比べなくても、やはり小ぶりだ。
しかしセンスのよいそれに、ベルギーはすぐさま顔を輝かせた。


「えっ、これくれるん!?」

「あぁ。…ベルギーみたいだろ」

「これが?」


大国に囲まれ、昔から係争地となってきたベルギー。その気苦労はずっと変わらない。
それでも、可愛らしくしかし弱くはないその姿は、この小ぶりながら華やかに装飾された髪止めのようだった。
大事なのは大きさではないのだ。


そんなことを伝えてやると、ベルギーは一瞬泣きそうな顔をした。背後にいるルクセンブルクたちには見えていないだろう。
それでも一瞬でそんな表情も隠し、笑顔に変えた。
これが、ベルギーの強さなんじゃないかとアルレシアは思っている。


「へへ、嬉しいなぁ!つけてみるね…」

ベルギーは髪止めを左側頭部につける。
ブロンドの髪に、ルビーの花弁がよく栄えている。


「どう?」

「…うん、やっぱ似合ってる」

「おおきになぁ!!」


ダブリエや髪止めよりも華やかな、笑顔の花が咲いた。


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