始めから飛ばしすぎ


21世紀。

ヨーロッパ会議なるものに参加するアルレシアは、あまりの退屈さにあくびを噛み殺しきれなかった。
ドイツとの国交回復後、よくこういう会議に出るようになったが、いまだにウィーン会議を繰り返す欧州諸国に呆れる。

今日は止まらないユーロ高についての会議だが、まずポンドを使うイギリスが「帰っていいか」と言い出したために初っ端から喧嘩である。

アルレシアも通貨は石油の都合で合わせる気はないが、貿易のことを考えるとちゃんとした話をしたかった。


「ったく、いつになったら躍らない会議ができるようになるんだ」


思わずため息混じりに言うと、隣の席からもため息が漏れる。


「ほんまやざ。何百年経ったと思ってんねや」


呆れたように言ういかつい男はオランダだ。
アルレシアの北海を挟んで向かい側、西欧の低地国である。

腕を組み、威圧感を出して座る様はどこのマフィアだといった感じだ。
当のマフィアの本場、イタリア兄弟はゆるるんと机に伏せている。
そのイタリアに叱責するのがドイツ、つい最近国交を回復した相手だ。

第二次世界大戦の禍根のひとつであったアルレシアとドイツの問題は、最近ようやく解決した。

それにあたって様々なこともあったのだが、多様性を増す国際情勢の中ではいつまでも過去を引きずることはできない。

それに、とアルレシアはオランダを横目に見上げる。
イライラとして眉間に皺を寄せながらも、その端正な顔立ちは 褪せない。

―――支えてくれるやつが、オランダがいるから。

どんなことがあっても、どんな凄惨な歴史を辿っても、支え合う相手がいる。
だから、大丈夫。

そういう気持ちをこめて、オランダの手を握る。

オランダは少し驚いたようにこちらを見てくるが、すぐにふっと表情を緩めて手を握り返す。


「どうかしたんか」

「…いや。ダメだった?」

「まさか」


厳しい表情だったオランダだが、今は背後にチューリップが見えそうな笑みを浮かべている。
こんな表情の変化をするのも、アルレシアの前だけだ。


「なんか…俺、いまだに信じらんねえな、オランダとこうなるなんて」


感慨深く感じて言えば、オランダは苦笑する。


「俺の黒歴史やざ…」

「150年ちょい、目も合わせなかったもんな」

「…こん話やめよっさ、自分殴りたくなる」


また眉間に皺を寄せたオランダに、その眉間を指で伸ばしてやる。


「いいじゃん、恋人になって70年くらいだし、そのうちその期間以上になる」

「…お前はまた、ほういうことほいほいと…」


オランダは困ったようにしてアルレシアの髪を撫でる。


「…我慢できん」

「え…」


オランダの目の中にちらつく欲に、アルレシアは顔に熱が集まるのを感じた。

思わず俯くと、盛大なフランスの咳払いが響いた。


「会議中にいちゃつかないでくれる?」


いつの間にかフランスはイギリスとの口論をやめていたようだ。
イギリスやスペイン、ノルウェーやデンマークがオランダを睨む。


「会議めちゃめちゃにしたんは誰や」

「ぐう…否めない…」


フランスは悔しそうに歯を噛み締める。


「ほんと仲良いのなー」

「俺らには当たり強いのにな」


オランダとアルレシアの様子を見ていたルーマニア、ブルガリアは色々悟ったように机に頬杖をついていた。


「なんでお前らそんな仲良いんー?俺とリトほどじゃないけどー」

「いや、俺とポーはあんなことしないでしょ…」


ポーランドの言葉に、今度はフィンランドも頷く。


「あんまり西欧のこと分かんないから、二人がどうして仲良くなったのか気になるな」

「そっか、東欧北欧はあんまし事情知らないのか」


フランスはぽんと手をつく。


「じゃあ今日はもう二人の恋バナにする?」

「なんでだよ」


思わずアルレシアは突っ込むが、イギリスは「まあ、いいんじゃないか」と了承した。
イギリスが頷いてしまえばもう反対者は出ない。

ドイツも気になるのか、珍しく何も言わなかった。


「はぁ…」


これはもう、逃げられないだろう。
オランダも 諦観している。
なんでこんなことに、と思うが、たまには昔話もいいかもしれない。


「はぁ…しかたねえな、話してやるよ」


これを理由に国債でも買ってもらおうか。


「粗探してアルレシア奪ってやる」


―――イギリスのニヤリと笑った顔に意志が揺らいだのは、言うまでもない。



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