ウィーン講和: 列強崩し


再び一同は鏡の間に集まった。
先ほど脅しを効かせたオーストリアはあまりこちらを見ようとせず、巻き添えとなったドイツ諸国はアルレシアから離れたところに立った。近くに居るのはオランダのほか、ロシアやプロイセンくらいだ。
それが、 まさに議論の構図となる。


「さて、そろそろ俺との通商交渉に入れるやつを明らかにしてえんだけど?個別交渉だって他の国との交渉と相対的に考えるからな」


相対的に考えるとはつまり、他の国との交渉の進捗によって別の交渉にも影響するということで、妥協した国が出るとハードルが高くなってしまう。
最初の段階でアルレシアに対してハードルを下げさせる交渉をしなければどうなるか分からず、その役目を果たせるのは列強くらいだった。


「僕は大丈夫だよ。内容も事前に示してくれた通りでいいし」

「なっ、」


最初に申し出たのは、なんとロシア。驚きでイギリスが目を見張る。列強の中でも経済が脆弱であるロシアが要求を飲めば搾取されるため、反対すると踏んでいたのだ。
ロシアはもちろんそれを懸念していないわけではないが、自力での経済の近代化よりも、アルレシア資本を呼び込み、国際貿易網に組み込まれることで合理的な近代化を図ることにメリットを見出していた。


「俺様もいいぜ〜」

「っ、そういうことですか……」


さらに乗っかったのはプロイセンだ。すでに譲歩を約束された密約関係であるため、すぐに賛成してみせた。オーストリアはアルレシアが列強の一角を崩して足並みを乱したことを察する。

アルレシアにとって良い誤算だったのは、ハノーファーやザクセンなどドイツ諸国もプロイセンに追随したことだった。恐らく、プロイセンに脅されたのだろう。あのあとプロイセンは各国を回ったのだと考えられる。
目配せで礼を言うとニッと笑みを返された。


「俺もええで。もともと全土を自由化するつもりやったさけ」

「俺も、言うごど聞ぐしかねえべ」


ロシアたちに関わらず交渉に乗るつもりだったのがオランダとデンマークだ。領土を明け渡す余地がそもそもない国と敗戦国だ、いたずらに後回しにする必要はない。


「イベリアの二人はどうすんだ」


あともう一押し、とアルレシアはイベリア組を見やる。びくりとしたスペインとポルトガルは恐る恐るこちらを見返した。


「俺が瀕死の状態で参戦してやってたんだ、感謝のあまり譲歩したくてしょうがねぇよなぁ?」

「お、おいスペイン、乗るぞこのやろー!」


小声でスペインを急かすのはロマーノだ。まだ明確な主権の範囲が決まっていないが、結果的に両シチリアをまとめることになるのは目に見えていた。
ここで反抗すればどんな無理難題を突き付けられるか分からないと察したロマーノによって、スペインは「せ、せやな」ととりあえず頷いた。


「しゃあないなぁ、アルレシアにそない言われたら逆らえへんし」


ポルトガルもそう軽く言いつつ顔が引きつっていた。それを見たフランスは、静かにため息をついてから口を開いた。


「じゃ、お兄さんも乗るよ。プーちゃんにスペイン、オランダが乗るってんなら、俺もここで参加しないと大陸経済から締め出されちゃうしね」


すでにロシアとデンマーク、プロイセンが賛成したためにバルト海交易圏はアルレシアの通商交渉に入った。さらにイベリアとロマーノ、北ドイツ諸国まで乗っかるとなると、欧州外郭をアルレシアの貿易ルールに囲まれるため、そこに食い込んでおかねばどうなるか分からない。
国土が疲弊しきったフランスにとって、復興のためには西欧の貿易圏から外れるわけにはいかなかった。

こうして、列強で残ったのはイギリスとオーストリアだけとなった。全員の目が、苦い顔をした二人に向く。


「…これで全部か?」


どかりとアルレシアは空いていた瀟洒な椅子に座り、膝を組んでそこに肘をつき頭を支える。見上げるようにイギリスたちを見ているが、それはさぞ挑戦的に見えたことだろう。


「…分かった、これ以上の悪足掻きは無駄だな」

「……まぁ、あまり勝てるとも思っていませんでしたよ、ええ」


そしてついにイギリスとオーストリアも頷いた。チェックメイトだ。
ニヤリとしたアルレシアは立ち上がり、胸に手を当てて軽く腰を折る。


「まいどあり。俺と口喧嘩しようなんざ10世紀早いんだよ出直せ」


うすうすこうなるということはエルベ川奪還作戦で気付いていたことでもある。イギリスたちは負けた悔しさを滲ませつつ、未だ勝てない相手としてアルレシアが君臨していることに、若干の安堵を覚えていたのも確かだった。


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