林間合宿と混乱−2


そんなことをつらつらと考えていたからか、手から出そうとしていたはずの蒸気がいつも出している足から出てきてしまっていたらしい。そんなことにも気づかず、突然増えた体積にドラム缶から水は突然あふれた。冷水は蒸気による温度の吸収によってさらに冷え、その状態で溢れたものだから、近くにいた爆豪にかかってしまった。


「つめってぇ!!ざけんな!!!」

「わっ、ごめん!」


しかもそれは相澤にも少しかかっていたらしい。冷水など気にならない底冷えする声で「おい…」と声をかけられた。


「轟兄…ちょっと来い」

「え…あ、はい」


まさかの呼び出しだ。焦凍の心配そうな目を感じつつ、相澤について歩き出す。冷水に濡れた服が非常に冷たく震えたので、体温を調節する。
相澤は訓練をしている場から離れたところまで来ると、灯水に向き直る。


「単刀直入に聞く。お前は何をそんなに迷っている」

「迷って…?」

「職場体験で先方から聞いた。どんなヒーローになりたいか分からないって言ったんだってな。お前の迷いは見ていても分かったから、同じく止まっていた八百万とチームアップしたんだ。だが、あいつはお前ら兄弟に救けられた一方、お前は期末でも解決してなかったな」


どうやら相澤には灯水の葛藤が少し分かっていたようで、それを考えて期末は一緒にしてくれたらしい。意外と見てくれているのだ。


「それでも期末後はなんとかモチベーションを保っていた。それが今日はなんだ、何があった」


本当にずばり単刀直入に聞いてくる。昨晩を境に大きく変わりすぎていることから、何かあったと踏んでいるようだ。事実そうである。だが、あれは自身の見えていなかった部分に気づけただけで、誰が何かをしたとかという話ではない。


「…本当に、特に何があったとかじゃないんです。自分の至らないところに気づいて、ちょっと気にしてしまっていただけで…」

「お前は自分の個性の至らないところを工夫して体育祭3位の成績を出したんだろう」

「個性はまぁ、そりゃ至らないところも多いですけど、今回はそうじゃなくて…」


煮え切らない答えは相澤に疎まれそうだが、相澤はきちんと灯水の言葉を聞いてくれていた。ちゃんと聞こうとしているのだ。


「じゃあなんだ。お前は周りのことよく見てるし、気づけるし、弟より社交的だろ」


個性でないとなれば性格的なところになるが、相澤は灯水には問題があるように見受けられないのだと言う。そりゃあ、表面上誰にも心配されないような人物でいたいと思っての言動をしてきたから当然だ。
その仮面を昨日見抜かれたのだ。


「…俺はそんな人間じゃないです」

「誰にだって欠点はあるだろ」

「そういうんじゃないです!」


考える間もなく、つい大き目の声で言ってしまった。相澤も面食らっている。それで冷静になった。向き合おうとしてくれている相澤に対しての言動ではない。だが、ざわつく体の内側を無視することもできなかった。


「…すみません、でも、大丈夫です。ちょっとあの…思春期的なあれです。気にしないでください…集中するんで、もう行きます。ご心配なさらずとも大丈夫なので」


オブラートに包んで放っておいてくれと言ってから、灯水は相澤の返答も聞かずに背を向けた。相澤は何も言わなかった。

だがこのまま集中を欠いた状態なのは皆に迷惑だし、除籍ものだ。ここで除籍になれば、もしかしたら切島たちにとても気を病ませるかもしれないし、焦凍にも良くない。
そうだ、灯水がたとえ出来損ないであっても皆に迷惑だけはかけるわけいにはいかなかった。焦凍やA組の優しい人たちには先に進んで欲しいからだ。
灯水にできることは、皆に迷惑をかけないように立ち回ることだ。今はとりあえず、除籍なんてことにはならないよう無難に済ませなければならない。

灯水はなんとかその考えでモチベーションを保ち、そのあとの訓練は何とかやりきった。


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