林間合宿と混乱−3
訓練後、今晩は肉じゃがを作るということでまた調理の時間になった。前回と同じ担当分けになったため、灯水は口田とともにじゃがいもの皮むきをすることにした。切島たちと離れたかったというだけだが、切島も上鳴も補習のせいでかなり消耗し、こちらを気にする素振りはなかった。
もしも気に留められたら申し訳ないと思っていたので、灯水にまで気を回す余裕がなくて良かった。
焦凍や飯田たちと食べて、軽く言葉を交わして食事も終えると、イベントの時間になる。
どうやら肝試しもするらしい。クラスごとに脅かし役と試す役に分かれる形式で、最初にB組が脅かし役として森林の中に待機する。
施設から離れた広場で集合し、そこから輪を描く道をぐるりと回って戻ってくるコースだ。ペアはくじびきということだが、補習組は相澤と施設で補習をさせられるという。
相澤に引きずられていく切島たちを見送ってから、くじ引きを待つ生徒たちの間をマンダレイのところに向かう。皆ジャージなどの私服でワクワクとしていた。
「あの…」
「どうしたの?」
「ちょっと具合悪くて…俺も施設戻ってていいですか」
「あら、それは大変ね。いいわよ、しっかり寝てなさい」
「はい」
マンダレイの許可をもらって、灯水も施設に向かう。こっそりと動いていたのでA組のメンバーには気づかれていないようだった。焦凍はペアになった爆豪と罵倒・天然の応酬を繰り広げている。
誰の目線も向けられず、灯水はその場をあとにした。
***
広い大部屋にひとり、畳の上で横になる。
電気はつけておらず、外からの月明りだけが部屋に差していた。部屋が広いからか、余計に沈黙が大きく感じる。
「…なに、やってんだろ……」
ぽつりと落ちた声は儚く消える。
灯水は黒いシャツに黒いズボンと服装も暗く、この部屋の闇に溶けてしまいそうだった。
「…むしろ、このまま消えちゃえばいいのに…」
そうすればこんな気分でいなくて済む。皆に迷惑をかけないようにこれから過ごすにはどうしようなんて、そんな虚しいことを考えなくて済むのだ。
暗い天井に向かって腕を突き出すと、捲っていた袖がずり落ちて白い肌が晒される。ほのかに明るい月光に照らされる肌を見ていると、それがだんだんと赤みを帯びてくるのが分かった。
腕だけではない。部屋の中がすべてだんだんと赤く照らされ始めたのだ。外からの明かりだろう。
「…なんだ?」
起き上がって窓の外を見る。暗い森が広がっているはずの光景はしかし、今は夜空に立ち上る赤い炎と黒煙によって森が照らされていた。
「なっ、森林火災!?でもいきなりこんな規模…」
延焼域は広く、50m区画はありそうだ。これが一瞬でできあがったのだ、徐々に燃える火災とは違う。真っ先に浮かぶのは敵襲だ。そう思った瞬間、頭の中にマンダレイのテレパスが響いた。
『皆!敵2名襲来!他にも複数いる可能性あり!動ける者はただちに施設へ!会敵しても決して交戦せず撤退を!』
ヒーロー以外は到着するまでここの場所を知らなかったはずの、閉鎖空間。そこに敵がやってくるなど考えられないはずだった。
「皆、肝試しであの森の中にいるはずじゃ…」
森は火災が広がっており、一部にはガスが立ち込めている。大規模かつ組織的な攻撃だ。ここは高いところだからよく見えるが、実際の森の中は明かりが届かず、哨戒能力がなければ敵と遭遇しても後手に回る。それに加えてあの火災では、どんどん追い詰められていく一方だ。
マンダレイがいるのは広場で、そこで敵襲があってテレパスしたのだとすると、あの火災とガスを引き起こした者もいるはずで、そうなるとこれはほかにももっと敵がいると考えるのが自然だ。
「…あの火災くらいは、消すべきだよね…」
戦闘しなければいいのだ、だから、皆の脱出を妨げるかもしれないあの火災を消すくらいならいいだろう。
灯水は部屋を出て靴を履くと、廊下の窓から蒸気によって飛び出した。