林間合宿と混乱−6
「そういえば!なんで灯水君はここに?施設にいたんじゃ…」
すると、緑谷が思い出したようにこちらを見た。必死すぎて意識していなかったのだろう。
「火災が見えて、消火だけしようと思って外に出たんだ。そしたら焦凍たちが交戦してたから…」
「それを相澤先生たちに言っていなかったからあのテレパス内容だったのだろう?」
「おっしゃる通りです…」
障子の言う通り、ヒーローたちは灯水が施設にいると思っている。ひとこと言わなかったことを今更後悔した。今日は本当にダメだなと反省しきりである。
「そうだ!敵の目的のひとつがかっちゃんと灯水君だって判明したんだ」
「爆豪と轟兄…?命を狙われているのか?何故…?」
そこで黒影にのまれていた常闇に緑谷は簡単に状況説明をする。黒影にのまれていたために聞いていなかったのだろう。
「分からない…!とにかく、ブラドキング、相澤先生のプロ2名がいる施設が最も安全だと思うんだ!」
「なるほど、これより我々の任は爆豪と轟兄を送り届けることか」
緑谷は頷くと、焦凍たちを見渡す。作戦タイムのようだが、爆豪と灯水は完全に置いてかれていた。
「ただ広場は依然プッシーキャッツが交戦中、道なりに戻るのは敵の目につくしタイムロスだ、まっすぐ最短がいい」
「敵の数分かんねぇぞ、突然出くわす可能性がある」
「障子君の索敵能力がある!そして轟君の氷結…更に常闇君さえいいなら、制御手段を備えた無敵の黒影…」
攻撃、防御、索敵すべてにおいて抜かりない布陣。焦凍は円場を背負って立ち上がり、常闇も座り込んでいたのをやめてすっと立った。
「このメンツなら正直、オールマイトだって怖くないんじゃないかな…!」
「なんだこいつら!」
カッと爆豪はキレるが焦凍は「お前中央歩け」と雑に言った。爆豪は気に入らないだろうが、これが最善だ。爆豪もそれは分かってはいるのだろう。
「俺が守るからな、灯水」
焦凍は爆豪を放っておいて灯水には優しくそう言った。狙われる心当たりはまったくないのだが、とりあえず頷いて置く。何かあれば灯水もできることはするだけだ。
先頭に障子・緑谷と焦凍、その後ろの爆豪と灯水、しんがりに常闇。
「俺を守るんじゃねぇクソども!!」
「行くぞ」
障子も爆豪を無視して歩き出す。不満そうな爆豪を横目に、灯水も続いた。
暗い森の中、道ではない場所を障子の索敵を頼りに進む。途中で誰かいないかとも思ったが、なんの音も聞こえなかった。
それにしても、と灯水内心思う。あの火災を消して少しでも皆の役に立とうとしたのが裏目に出た。結局戦いでは防御一辺倒で常闇がいなければ倒せなったし、なぜか敵に狙われてお守をしてもらっている。施設にいればよかったものを、先生にも言わずに出てきてこれだ。完全に迷惑以外の何物でもないだろう。
やるせなくなって俯くと、ふと、横の気配がなくなった。爆豪がいないのだ。
置いてきたかと振り返ろうとした瞬間、突然意識がブラックアウトした。
次に目が覚めたとき、そこはまったく景色が変わっていた。あまりに突然のことに、時間がゆっくりとスローモーションになったかのように見える。
近くで火災が起きているのだろう、赤く照らされた森の中の開けた空間。自分の肩から体の前に、まるで火傷跡のような皮膚でできた腕があって後ろに引っ張られている。隣には爆豪がいるのが視界の端に見えた。
「問題、なし」
耳元で聞こえる低い声。
目の前には、焦った顔の障子、驚く常闇、そしてこちらに必死に手を伸ばす緑谷と焦凍がいた。
「かっちゃん!!!!」
「灯水ッ!!!!!」
一瞬で状況を察した灯水は、なぜかまったく焦る気にならなかった。思い返されるのは、先ほどまでいた施設の大部屋。暗闇の中で黒い服に身を包んだ自分が、このまま消えてしまえばいいのにと思った。
今まさに、恐らく黒霧のものだろう黒いワープが灯水を包んでいて、溶けるようにその中に引きずり込まれていた。黒いワイシャツとズボンのせいで境目はパッと見分からないほど。
「来んな、デク」
爆豪はそう言って先に完全に飲み込まれ、灯水も目の前の焦凍の目を見つめる。必死の形相だ。
「…ごめんね、焦凍」
なぜ謝ったのかはわからない。迷惑をかけたことだろうか。大変な目に遭わせたからだろうか。分からないが、思わず口をついた言葉だった。
「灯水……!!」
そんな悲痛な焦凍の声を最後に、視界は闇に包まれた。