神野の悪夢/後編−2





「オッラァ!コッラァ!」


へたくそな巻き舌でガンを飛ばす、髭を生やした緑谷。


「ちげぇもっと顎をくいくいやんだよ!」


そんな緑谷に指導する、髪を下ろし角を生やした切島。


「パイオツカイデーチャンネーイルヨー!」


とてもノリノリだがへたくそなキャッチをする飯田。


「夜の繁華街!子供がうろつくと目立ちますものね!」


キャバ嬢の衣装に身を包み満足そうな八百万。


「なるほど、変装か」


そして、ワックスでもりもりの黒髪を被る焦凍。

神野区についてから八百万が考案した変装だ。敵に素性が割れていることから、また時間が遅いことから、変装をして行こうということだった。それはいいのだが、コンセプトが謎だ。
キャバ嬢のきらびやかな安っぽいドレスに身を包む八百万は見た通りで、恐らくワイシャツにベスト、大きく開けたボタンと焦凍はホスト。
飯田は屈強なタイプのキャッチで、切島はチャラいタイプのキャッチだ。緑谷は金がない客に色々と要求するすごみ役か。

激安の王道ドンキ・オオテでそろえたものだ。創造すればいいのでは、という焦凍の指摘は、八百万の「国民のひとりとして…うん、回さねばなりませんもの!経済を!」というマクロな返事によってなかったことになった。


***


その後、一行は神野区内の信号が示す場所へやってきた。繁華街とオフィスビル街との間に位置する雑居ビルの並ぶ通りで、見るからに怪しい廃倉庫だ。
もちろん、信号の示す場所がそのままイコール灯水たちのいる場所ではない。敵の情報のほとんどがない状態であるというか細い状況を八百万は強調し、飯田も改めて無理はさせないことを念押した。

なんとか中の様子が確認できないかと5人で見ていると、突然酔っ払いの男たちが絡んできた。


「ホステス〜俺たちと飲みましょうよ〜!!」

「オッラァ!」

「パイオツカイデーチャンネー」


八百万の前に出る飯田と緑谷は相変わらずへたくそで、焦凍は「いったん離れよう」と冷静に3人を連れて離れた。
近くの自動販売機まで後退すると、改めて状況を窺う。


「多くはねぇが人通りもある…」

「目立つ動きはできませんわよ、どうされますの?」

「…裏に回ってみよう、どんなにか細くても僕らにはここしか情報がない」


繁華街から遠くなく、一本向こうの通りはオフィスビルが立ち並ぶことから、人通りは多くはないが途切れない。横浜の中心的な地域だ、当然である。
それに対して緑谷は、倉庫の横にある細い路地ともいえない隙間を指さした。倉庫の敷地を囲む壁のおかげで体は全員隠れるだろう。

それしか方法はないため、一同は倉庫脇の細い隙間にどんどん入っていった。先頭には緑谷、そして飯田、焦凍、切島、八百万と続く。


隣の雑居ビルの壁面が近く、思うように動けないが、なんとか奥まで進む。緑谷はあたりを見渡して、なんとか中の様子を見ようとしていた。


「安全が確信できない限り動けない…あ、あそこなら中見れそうだよ!」


緑谷が指す倉庫の壁には、そう高くない場所に窓があった。中は明かりがついておらず、あたりに光源はない。


「この暗さで見れるか?」

「それなら私暗視鏡を…」

「いや!八百万それ俺持ってきてんだな実は」

「ええすごい!なんで!」

「アマゾンには何でもあってすぐ届くんだ」


切島がもしものためにと持ってきた暗視鏡は、緑谷いわく5万するものらしい。切島は自腹で購入したという。それがあるなら話は早い、すぐに確認するべきだ。


「よし、じゃあ緑谷と切島で見ろ、俺と飯田が担ごう」


焦凍が緑谷を、飯田が切島を担ぎ、2人に中を確認してもらう。まずは切島が暗視鏡で倉庫の中を覗くが、突然「うお!?」と叫んでよろけた。緊張が走り、慌てて緑谷が次に中を見る。


「嘘だろ!?あんな…無造作に…あれ、全部…脳無…!?」


この倉庫は脳無の製造を行うところだったのかと、そんなものが町中にあることに戦慄したときだった。突然、通りから差してくる電灯の明かりがさえぎられた。
何事かと5人がそちらを向いたその瞬間、突然倉庫の入り口付近が轟音とともに崩壊した。風圧によって緑谷の髭や切島の角、焦凍のカツラも飛んでいった。

倉庫を文字通り踏みつぶしたのは、ヒーロー・Mtレディだ。巨人化して足で入口を破壊したらしい。
通りからは警察の機動部隊らしき声もするし、さらにNo.4ヒーロー・ベストジーニスト、敵っぽいということで知られるヒーロー・ギャングオルカ、そしてプッシーキャッツの虎もいるようだ。


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