双子のかたち−8
焦凍にとって灯水がどんな存在かと聞かれれば、答えられない存在だった。
二卵性の双子として生まれた焦凍と灯水。一応兄は灯水である。
焦凍はその後、炎司の望み通りの個性を持って生まれてきたことが発覚し、灯水はもちろん、他の兄弟と遊ぶことを許されないまま修行をさせられた。
暴力に耐えかねた冷は焦凍に熱湯を浴びせて怪我をさせ、炎司によって病院に入れられた。自由もなく、ただつらい生活にあって唯一の心の拠り所だった冷がいなくなったことは、焦凍にとって絶望だった。
しかしそこに現れたのが灯水だった。
炎司の出来損ないと言われながら、こっそりと努力を重ね、両親の個性の混合型として実力を炎司に認められた。それ以来、苦しい修行にはいつも灯水がいるようになり、焦凍は1人ではなくなった。
なんで修行に付き合うのか、一度聞いてみたことがある。幼いながらに、炎司に嫌われる灯水が修行に付き合うメリットを感じられなかったからだ。
灯水は笑って即答した。
「焦凍を1人にしないためだよ。僕がずっと一緒にいるからね」
だからもう、大丈夫だよ。そう言った灯水は、確かに「兄」の顔をしていたように思う。
世界に独りぼっちになったような感覚の中にいた焦凍にとっては、まさに光が差すような気持だった。
炎司は嫌いだ。自分の理想のために妻子を道具として扱い、灯水を出来損ないと罵った。
冷は好きだ。つらいときに側にいてくれた。だが、焦凍のせいで病院に隔離されてしまった。
冬美は好きだ。母の代わりに家庭を支えてくれる。
では灯水は。
好き、愛してる、そんな簡単な言葉は、どうにも当てはまるような気がしなかった。そういうレベルを超えて、一般的な感情で表現できない。
そう、唯一無二なのだ。双子といえど二卵性の似ていない双子、しかし己の半身。灯水がいなければ、焦凍は生きていくことすらできない。
灯水自身は、自分がそこまで焦凍に影響を与えたという自覚はないようだった。別に自己評価が低いわけではないのだが、どうにも分かり切っているわけでもない。
炎司に出来損ないと言われ続けたからか、または焦凍ほどわかりやすく強い個性ではないからか。灯水は自身を、低くはないが正解までの高さで評価していなかった。
実際には、灯水の存在は焦凍にとって生命維持装置に等しい。灯水がいないと呼吸すらできなくなりそうだ。
それは、焦凍が自身の力をすべて父の否定というネガティブなことに振り切っているように、ポジティブな気持ちを灯水に振り切っているからだろう。焦凍に残されたポジティブな部分は、ほぼすべて灯水のためにスペースが設けられているのである。
簡単に言えば依存なのかもしれない。焦凍にとって灯水が生きる理由になっているからだ。
健全でないのは2人とも分かっているが、こういう生き方しか2人には残されていなかったのである。
だがそれを後悔することも嘆くこともない。むしろそれで良かったとすら思っている。
雄英からの帰りの電車の中、隣に座る灯水は疲れで寝てしまい、焦凍の右肩に頭を乗せていた。右側に触れる体温が心地よく、愛おしい。
焦凍に比べて母寄りの穏やかで端正な顔は、寝ていることでいっそう幼さを増していた。
可愛い。よく面と向かって灯水に可愛いと言っているが、すべて本心だ。双子の兄に言うことではないのかもしれないが、そう思ってしまうのだから仕方ない。
可愛い、は愛おしい、に近い感情である。最愛の兄は、焦凍のためにここまで来た。そうやって無償で隣にいてくれる存在の、なんと尊いことだろう。頭を撫でつつ、焦凍は灯水と双子で生まれてこれたことを改めて感謝した。