気付けなかったこと−12
その後、女子たちの部屋も見て回ったものの、結局部屋王とやらは砂藤の部屋となり、理由はケーキに釣られた女子の組織票だった。
やっと解散ということで散っていくA組だったが、なぜか麗日は焦凍、緑谷、飯田、八百万、切島と呼び止めた。何となく察した灯水だったが、焦凍に先に部屋に行っていていいと言われたので先に向かうことにした。
スリッパを脱いで畳の空間に上がると、畳に寝そべってスマホを弄る。真新しい畳の香りというのも良いもので、うとうととしながらもニュースなどを確認する。
畳の上というのは脱力させる作用が強いと思う。このまま寝ても許される感じがしてしまうのだ。目蓋が落ちないよう頑張っていると、扉ががちゃりと開く。それにハッと覚醒して体を起こした。
「お、かえり…寝るかと思った」
「わり、待たせた」
焦凍が戻ってきたため立ち上がると、焦凍もスリッパを脱いで畳に上がる。
「布団敷くから先歯磨きとかしてろ」
「了解」
「もうお前の分出してある」
「さすが過ぎて…」
焦凍が布団を用意してくれている間に、灯水はフローリングが残った洗面台を使う。洗面台の反対側にはトイレの扉がある。歯磨きをしながら見渡していると、保湿クリームが見えた。灯水は個性の都合で、全身が常に潤っている。一方で焦凍は体の半分で分かれているために、左側は乾燥しやすくよく保湿クリームを使っていた。
用意が終わったので、入れ違いに灯水は布団の方に向かって焦凍は歯磨きをする。きちんと枕が二つ並んでいるので、右側に頭を乗せる。
まもなく焦凍もやってきて、焦凍も左側の枕に横たわって照明を消した。真っ暗になった部屋。しばらくそうしていると、焦凍がおもむろに口を開いた。
「まだ起きてるか?」
「うん、どうしたの?」
「…さっき、蛙吹と麗日に呼び出されたんだ」
そういえば先ほど、蛙吹は具合が悪いので部屋を覗かなかった。呼び出されたメンバーから考えると、神野区の件だろう。
「…本当はな、蛙吹やほかのA組の奴らには止められてたんだ。お前らを救けに行くの」
「まぁ、そうだろうね」
もし焦凍たちが来なくても、何とか灯水たちが耐えしのげば、遅れてやってきたグラントリノや炎司に救けられていただろう。だがそうでなければ。あのとき焦凍たちに救けてもらえなければ、最悪の結末もあり得た。
「特に蛙吹は、さっき自分でも言ってたけど、心を鬼にしてきつい言い方をしてくれた。どんなに正当な感情でも、法を破れば敵と同じってな」
「…正論、だね。俺らには耳に痛い」
「本当にな」
かつてステインのときに怒られたことだ。武力として個性を使わなかったのは焦凍たちの最大限の努力だったのだろう。
「飯田だって、ステインのことがあったから、俺たちを最初は止めようとしてた。それを、八百万と一緒に、俺たちを制止するために来てくれた。実際、あいつらが止めてくれなきゃ、もっと早くに考え無しに出てた」
「オール・フォー・ワンの前に?何それ危険すぎる」
「今思うと俺もどうかしてた」
一瞬で市街地を消滅させる力を持っているのだ。無造作に殺されていただろう。意外と危ない橋を渡ってくれていたのだと分かった。
「…蛙吹は、止められなかったことの負の感情が強くて、今日俺たちと話せなかったけど、それは悲しいって言って、話してくれた。麗日も言ってたけど、芦戸たちが部屋王とかやってたのも、皆がそれに乗ったのも、あの事件から空気を少しでも日常に戻したかったからなんだろうって」
「なるほどね……うん、ほんと、A組はみんないい人たちだよね。蛙吹さんも、皆も」
「あぁ、そうだな」
焦凍は言葉は短くとも本心から納得していた。そして、灯水の体に腕を回してくる。かけ布団が擦れる音とともに、焦凍の筋肉質な腕が灯水の肩を上から抱いた。
「…焦凍?」
「いや…改めて、お前と一緒にいれることって、いろんな奇跡の上にあるんだなって思ったら、なんか、堪んねぇ気持ちになった」
「そ、そう…」
突然ぐっと縮まった距離に、ふと灯水は思い出す。お盆前、焦凍に本気で人生を添い遂げることを提案され、「同じ籍」だなんて本気で言われた夜のことだ。
先ほどまでA組のことを思ってしんみりとしていたのに、急に意識してしまったのだ。
曲がりなりにも同じ籍宣言したような男と同じ布団に寝ているのだと、しかも肩を抱かれているのだと思うと、腕から伝わる熱がものすごく感じられてしまう。心臓の鼓動が早まる。
なんだ、これ。
灯水は半ば呆然としながら、必死に寝ようと集中した。