新たな双子のかたち−2


そうして超臨界水の安定化に努めて辺りのコンクリートを融解させていると、1人1人回っているというオールマイトがやって来た。テレビで見たやせ細った姿で、本人はそれをトゥルーフォームと呼んでいた。


「調子はどうだい、轟少年兄」

「オールマイト…はい、とりあえず超臨界水の練習してるんですけど…ほかに攻撃が思いつかなくて」


エクトプラズムがセメントスに溶けた部分の修復を頼んでいる横で、灯水は改めて悩んでいることをオールマイトに告げてみた。「ふむ、」とオールマイトは自由になる左手を口元に添えた。右手はギブスで首から固定されている。


「君の個性は、氷結をベースにそれを熱して、水、熱湯、蒸気と変えていくんだったね?」

「はい。体内で圧力と温度を調節して臨界突破するのが超臨界水です」

「なるほど。見た目には、半冷半燃というより、水の状態変化の個性と言ってもいいかもしれないね」

「そうですね」


炎を出すことができないため、確かに見た目には炎熱の個性も持っているとはいえない。炎は操るだけである。


「水は自然の中でも最も基本的なものだし、人間社会においても最もありふれて、最も重要なものだ」

「…?はい、」

「だから、ゼロから作り出すよりも、自然界や社会にすでに存在しているものから着想を得た方がいいかもしれないよ」

「あ……そ、っか、なるほど……なるほど!」


万物は水から生まれ、水を必要とする。人間の体も半分以上が水分だし、空気だって水分を多く含む。あらゆるところに、あらゆる形で存在するのが水だ。
それだけ汎用性が高いということでもあるため、既存の形からヒントを得るというのは大いに効果的といえる。


灯水は氷結のように熱湯を足から地面に伝わせると、一気に空中に向けて柱のように大量の熱湯をぶち上げた。地面から熱湯が噴き出しているように見える。


「おお…!そういうことだ!」


オールマイトは感心したように頷いてくれた。最近、世界ミステリー発見で見た間欠泉をモチーフにしている。間欠泉とは、火山の近くなどで地面から熱された地下水が噴き出す現象のことである。
セメントスがコンクリートによってあふれ出た熱湯が他の生徒のところにいかないよう囲いを作ってせき止めると、高温の熱湯が溜まって温泉のようになっていた。湯気の立ち上る様子に、芦戸の「温泉行きた〜い!」という声が聞こえてきた。


「君ならいろいろなことが思いつくだろう。期待してるよ」

「はい、ありがとうございます!」


礼を言ってオールマイトが立ち去ると、エクトプラズムが近寄ってくる。


「足元カラノ攻撃ハ避ケニクイ。初期動作ヲモット隠密ニシテ、一瞬カツ大規模ナ技ニシヨウ」

「はい!」


細かく見てくれていたエクトプラズムの助言に則って、灯水は間欠泉型の攻撃と超臨界水の精度を上げることにその日は費やした。



***



1日目の訓練を終えて、A組一同は心地よい疲労のもとで帰寮した。口々に成果を報告しながら、互いに助言している。灯水も焦凍とともにどんな技がいいか、どのように精度を上げていくかを話しながら歩いた。
このときは必殺技のことで頭がいっぱいで特に意識はしていなかったのだが、夕食前に風呂に入ろうということになると、灯水は気づく。


(あああそっか、寮の大浴場で皆一斉に入るんじゃん…!)


合宿のように一時的なものならまだいい。だがこれからは、寮生活であるため男子が一緒に風呂に入る。すなわち、焦凍とも常に一緒になる可能性が高いということだ。家ではさすがに風呂は別だったため、これから毎日と思うと気が遠くなる。
いくら一緒になる必要はないとはいえ、焦凍も灯水も食後に入浴するのが苦手なタイプ。課題や放課後の時間の使い方などを考えると、ほとんど同じ生活リズムになってしまうのだ。一緒にならないようする方が難しい。


(いや…他にも男子いるわけだし、てかそもそも意識する方が変でしょ…双子の弟だぞ、見慣れてんだぞ…全っ然平気だって…うん、大丈夫大丈夫…)


そう自分に言い聞かせながら脱衣所にやってきて、むさくるしい男子たちに交じって服を脱ぐ。ぐるぐると考えていたからか、隣で服を脱いでいた焦凍に気づかれた。


「灯水?どうかしたか?」

「えっ、」


思わず何でもない、と言うためにそちらに顔を向けてしまった。その途端、鍛えられた引き締まった焦凍の体が目に入る。本能的に目を逸らして目の間のカゴをガン見した。


「あ、明日どうやって訓練しよっかなぁ〜って」

「…?そうか」


それだけ言って、焦凍はタオルを腰に巻いて風呂場に向かう。誤魔化せたかは分からないが、とりあえず動揺が悟られなければいい。
まずは息を深く吸って吐く。落ち着け、と再び自分に言い聞かせてから、灯水も風呂場に入った。

焦凍から離れたところで無心で体を洗い、隣の上鳴とやたら話して、灯水は湯舟に入った。髪がぺたりとしている上鳴が向かいに座り、浴槽の淵にもたれて心を落ち着ける。やはりお湯はいい。体が暖かい湯に包まれて筋肉が弛緩し、心臓もおとなしくなるというものだ。


「髪伸びたな」

「クソがッ!!!」

「ええ!?」


突然、隣にやってきた焦凍に頭を撫でられ、思わず叫んだ灯水は思い切り水面に顔を叩きつけた。バシャッとヘドバンのように顔を沈めた灯水に、正面にいた上鳴が驚く。誰だお湯は落ち着くとか言ったヤツは。


「…どうした?」


訝しむ焦凍に平静を装うため、灯水は顔を上げる。ちょっと黒歴史思い出して死にたくなった、と言い訳しようと焦凍の方を見て、先ほどと同じ過ちを繰り返した。
いつも通り、お湯に浸からず淵に座って足だけ湯舟に入れる焦凍。腰にかけたタオルは濡れて、その体のラインをはっきりと見せている。背中を曲げていることで強調される腹筋、逞しい胸板を流れる水滴、筋張った腕、水が溜まる鎖骨。水も滴るいい男という言葉が服を着て歩いているような男だ(服は着ていない)。

再び無言で顔面を湯舟に叩きつける灯水を、上鳴がドン引きして眺めていた。


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