新たな双子のかたち−3


まったく動揺を隠せなかった風呂を出てから、本校舎の食堂で夕飯を食べている間ずっと、焦凍は灯水のことを探るように見ていた。明らかにおかしかったのは自覚しており、何かを隠していると勘繰られても仕方がないと思う。

寮に戻って、一緒に行動していた緑谷と飯田、焦凍と分かれると、灯水は落ち着くために煎茶を淹れようとキッチンに立った。沸騰するヤカンの火を止め、はあ、とため息をつく。なんだか茶を淹れるのも面倒になり手が止まってしまった。
どうしようか、と思っていると、このオープン型キッチンの外側から声がかけられた。


「灯水、」

「上鳴君?」


振り返ると、どこか心配そうな顔をした上鳴がいた。そういえば、風呂で動揺する様を終始見られていた。


「どした?なんかあったのか?」

「あー…」


咄嗟に繕わないと、と思ってしまうのは長年の癖だ。だが、上鳴は家に来てまで思いを教えてくれた。人付き合いという点では、灯水よりも遥かに経験値も上だ。相談しても、いいのかもしれない。自分で答えを出せる気もしなかった。


「…ちょっと、悩んでることがあるんだ…その、上鳴君が良ければなんだけど、相談してもいいかな」

「っ、マジで!当たり前じゃん、何でも聞くぜ!!」


上鳴はパッと顔を明るくした。相談したいと言っただけでこう反応してもらえると思わず、改めていいヤツだな、と感じた。

2人は上鳴の部屋に移動する。ごちゃごちゃとした部屋だが、なぜかそういう方が話しやすい気がした。
上鳴に促されてローテーブルの前に座ると、上鳴も向かいに座る。そわそわとしている上鳴になんて切り出そうか、と思っていると、上鳴から口を開いた。


「とりあえず、好きに話してみろよ。順序とか気にしなくていいから」

「…うん、わかった」


そういう風に始めてもらえると話しやすい。さすがのコミュニケーション能力である。気兼ねなく言葉にできるというのは安心感があった。


「…焦凍にさ、ずっと一緒にいたいって言われたんだ」

「お前ら仲良いもんな」

「うん、それだけなら双子だし、それで終わるんだけど…そのときに、どうせ同じ籍だし、とか、ヒーロー引退したら郊外で暮らそう、とか言われて」

「…おっと。なるほど」

「俺、合宿以来自分のコミュニケーション能力を疑ってるんだけど、これはさすがにその…籍とか言ってるし…普通じゃない、よね?」

「そこは安心していいぞ灯水、それは仲の良い双子じゃ済まねぇわ」

「だよね!?それなのに昨日、つい和室に釣られて一緒に寝ちゃったんだけど、急に意識しちゃってさ…全然寝られなかったし、なんか今日も風呂でやたら焦凍のこと意識しちゃって…」


焦凍が変なことを言うものだから、灯水は焦凍のことをやたら意識してしまったのだ。ただの双子の弟だったのが、風呂でも急にいつもと違うように見えてしまい、どうすればいいのか分からず湯舟でヘドバンしたわけである。


「それで風呂であんなだったのか…まぁ、そりゃそんなこと言われたら意識するわな」

「そうだよね、良かったぁ、俺が変なわけじゃなかったのか…」

「…にしても、轟の意図が見えねぇよな。あいつ天然だし。まぁお前もだけど」

「…?俺は天然じゃないけど、焦凍はそうだよね」


そんな自覚はないが、焦凍は確かに天然だ。突拍子もないこと言い出す。上鳴は微妙な顔をしたが、「まぁ、轟のことだけでいいか今は」と保留にした。解せないが上鳴の言う通り、そこは本題ではない。


「ようはあれだろ?轟が恋愛的に灯水と一緒にいたいと思ってるのか分からないんだよな」

「恋、愛……まぁ、うん、そっか」


言葉にすると明確になる。恋愛。同じ籍という言葉は、なるほど確かにジャンルとして恋愛に該当する言葉だ。ただ、本気で焦凍が恋愛の意味で言っているのかは、焦凍の天然ぶりや、そもそも2人が血のつながった双子であることから定かではなかった。


「…何をもって恋愛っていうんだろ…好きって気持ちの違いがよく分からない」


恋愛経験のない灯水は、人をそういう意味で好きになるというがどういうことか分からなかった。家族愛や友愛とどう感覚的に違うのだろうか。


「そりゃあ、決まってんだろ」

「な、なに」

「ムラムラするかどうかだ」

「…ムラムラ」


上鳴はどや顔でそう言った。ムラムラするとは、つまり欲情するということだ。何を言っているんだ、と最初は思ったが、しかしよく考えてみるとそれも言いえて妙かもしれない。恋愛とは、やはりそういう行為を伴うものだ。だからその気があるかどうかというのは、判断基準としては単純明快である。


「轟の場合は考えてみても分からなさそうだし、ずばり聞いちゃえよ」

「直接?」

「おう。必殺技訓練に集中したいだろ」

「…まぁ、そうだけど」

「頑張れ」


上鳴は笑うと肩をバシバシと叩いてきた。何やら意味深な笑顔ではあったが、とりあえず助言に従うことにした。やはり訓練に集中したい。


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