置いて行かれたのは−3


黒服の男たちにターゲットとボールを配られると、1分のカウントダウンが始まる。A組は何となく固まっているが、他の受験者たちは続々と元いた位置を離れて四散していく。
灯水はターゲットを左腰、左胸、右の背中につけた。

ざわつく会場で、緑谷が口を開いた。


「先着で合格なら…同校でつぶし合いはない…むしろ手の内を知った仲でチームアップが勝ち筋!皆!あまり離れず一塊でいこう!」


頭がキレて経験の豊富な緑谷は、今やクラスのブレインのような立ち位置にいるようだ。頼もしいが、残念ながら灯水はそれに乗るわけにはいかない。


「ふざけろ、遠足じゃねぇんだよ」

「バッカ待て待て!」


同じことを思っていたようで、爆豪がまずたったかたーと離れていく。切島と上鳴は制止しようとそれについていった。向かう方向はまっすぐ北、高速道路地帯だ。
一方で、焦凍もたったかたーと走り出す。


「俺も、大所帯じゃ却って力が発揮できねぇ」

「轟君!」

「ごめん、俺も以下同文!」

「灯水君!」


申し訳ないが、範囲攻撃型の灯水も味方が多い状態での混戦には不向きだ。いずれ改善する必要があるが、今は無理して一緒にいる必要もない。

焦凍は工業地帯に向かったので、灯水は繁華街に向かった。

そもそもこの試験、雄英生には不利だ。なぜなら、かつてのオリンピック級で日本中が熱狂する祭典として体育祭をやっているため、個性どころか各々の弱点までばっちり晒されているからだ。手の内が分かっている相手から潰すのは常套手段といえる。
だが、灯水はほかのA組を心配してなどいない。プロになれば手の内が明らかになった状態で会敵するのが当たり前だ、それが少し早まっただけ。

かつてオールマイトもUSJで言っていた。相手が自分の100%に対応してくるのなら、それを上回れば良いのだと。USJと神野区、両方で間近にオールマイトの戦いを見たのだ、引退した彼のあと、ポストオールマイトの時代を引き継ぐ灯水たちがこんなところで負けるわけにはいかないのだ。

カウントダウンがゼロになる。途端、会場は突然とてつもない喧騒に包まれた。同時多発的に勃発した戦いの数々がそれぞれに轟音を響かせているのだ。

灯水も繁華街に入ると、そこはもう大混戦状態。少しでも固まろうとしているようだが、ここまで入り乱れると敵味方もない。様子を見ようと戦いの中を走っていると、会場にアナウンスが流れる。目良の声だ。


『えー、現在まだどこも膠着状態…通過ゼロ人です…あ、情報が入り次第、こちらの放送席から逐一アナウンスさせられます』


また焦燥感を駆り立てるサービスだ。混戦状態の繁華街のメインストリートに出ると、大通りは高層ビル街に向かって続き、オフィス街に代わっていくようだ。どういう作戦でいこうか、と思っていると、突然地面がぐらぐらと揺れる。アナウンスで地震とは言っていないため、これは誰かの個性だろう。
全国からの猛者が集まるのだ、相手の個性は侮るべきではない。

すると、オフィス街の方からどよめきが起こった。見てみると、上空に向かって風がボールを巻き上げていく。よく見ると雑居ビルの屋上にイナサが立っているのが見えた。
そしてイナサは、ボールを一気に風で地上に叩きつける。まさか、あれをすべてコントロールしているのかと灯水が顔を引き攣らせると、アナウンスも驚き交じりに響く。


『あ、ようやく1人目の通過が…うお!?脱落者120名!1人で120人脱落させて通過した!』

「あれ全部当てたのか…マジか…」


入試のときから、風を使う個性として強いとは思っていたが、ここまで緻密なコントロールができるとは。
すごいな、と畏怖する気持ちもあるが、それよりも自分はどうしてやろう、というワクワク感が沸き上がるのを感じた。


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