英雄の学び舎−3
「君は…俺は聡明中学、」
「聞いてたよ、僕緑谷、よろしくね」
飯田が話しかけた緑谷という生徒は、緑がかったもじゃもじゃの髪をした、そばかすが特徴的な男子だ。緑谷と飯田は若干の面識があるようだ。
「緑谷君、君は…あの実技試験の構造に気づいていたのだな。俺は…気づけなかった…!」
「…あの実技試験?」
灯水が飯田の言い方に疑問を覚えると、葉隠が「あれ、」と首を傾げる(ように見えた)。
「灯水君、まさか推薦?」
「そう。だから一般入試の実技は知らないんだ」
「なるほど!すごいねぇ。一般はロボットとの戦闘だったんだけど、実はこっそり他の受験生を助ける救助も評価対象だったんだって!私たち、そういう救助ポイントなんて聞かされてなかったから、びっくりしちゃった」
「あぁ、そういうことね」
表向きはロボットとの戦闘に重きを置いて置きつつ、裏では他の受験生を助けようと行動していたかも評価していたということだ。ヒーローとして、素の行動で救助できるかがポイントだったんだろう。むしろ、焦凍なんかは点数を落としそうだ。
緑谷たちには、あとから来た女子も加わって何やら喋っている。そろそろ時間だ、と思って席を前に向けると同時に、冷え冷えとした声が響いた。
「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」
ここからは見えないが、声だけはしっかりと聞こえてくる。声の主は立ち上がると、全身を包んでいた寝袋を開いて何かの幼虫のように出てきた。内心で「なんだあれ…」と思ってしまうのも無理はないだろう。
「担任の相澤消太だ、よろしくね。さっそくだが全員、体操服来てグラウンドへ出ろ」
***
本校舎の側に設置されたグラウンド。数あるものの中で一番普通のものだ。そこに、各自体操服を着て集められた。体操服は紺を基調とし、白いラインで大きくUAという形で模様が描かれている。白い模様の淵は赤くラインが引かれていた。
そこで相澤が打ち出したのが、個性把握テストの実施だった。
「入学式は!?ガイダンスは!?」
「ヒーローになるならそんな悠長な行事参加してる時間ないよ」
緑谷と一緒にいた少女、麗日というらしい生徒に相澤はすげなく返す。灯水としても式典はどうでも良かったので特に異論はない。
「雄英は”自由”な校風が売り文句。そしてそれは”先生側”もまた然り」
つまり、式典などに出るならヒーローになるための行動をするというのが相澤の言う自由なのだろう。それって本当はA組も入学式に出る予定だったのでは?と思ったが、相澤がいいと言う以上考えても仕方ないことだ。
個性把握テストとやらは、従来から行われている体力テストに則って行われるらしい。文部科学省が前超常時代から行っている全国画一の身体能力測定のことで、個性の使用は禁じられている。一般民法や刑法の法整備すらままならないのだ、教育指導要領を時代に即したものにすることなどまだまだ先の話になる。それを相澤は「怠慢」と吐き捨てていた。
「爆豪、ソフトボール投げ中学のとき何メートルだった」
「67メートル」
「じゃあ個性を使ってやってみろ、円から出なきゃ何をしてもいい」
爆豪が相澤に呼ばれ円に立つ。投げられたボールを受け取ると、軽くストレッチをしながらボールを飛ばすレーンを見据える。
「思いっきりな」
「んじゃまぁ……死ねぇ!!!!!」
投球フォームで思い切り爆豪がボールを投げる。同時に手から爆発のようなことが起こり、ボールはありえないような飛距離で空に浮き上がる。すさまじい威力だが、いかんせん「死ね」と言いながら投げるのはいかがなものか。
ボールには計測機械がついているようで、相澤のスマホ端末に結果が表示される。その距離は、なんと705.2メートル。
その結果にクラスはざわつくとともに、思い切り個性を使えることに「面白そう」という声も上がる。それに対し、相澤は低くつぶやいた。
「面白そう、か。ヒーローになるための3年間、そんな心づもりでいるのか?…よし。トータル成績最下位の者は見込みなしとみなし、除籍処分としよう」
「はああああ!?」
突然宣告された厳しすぎる内容に、途端にクラスから悲鳴が上がる。相澤はにやりとニヒルに笑う。
「生徒の如何は先生の”自由”。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」