焦凍、焦燥、衝動−2


靴箱へやってくると、突然後ろから声がかけられた。ずらりとクラス分の靴箱が並ぶ昇降口と階段との間の廊下で、後ろの列から絡んでくる生徒。


「聞いたよA組ィィィ!!二名!!そちら仮免落ちが二名も出たんだってええ!!??」

「物間!相変わらず気が触れてやがる!!」


声の主はB組でやたらA組を敵視してくる生徒としてお馴染みの物間だった。そんな闘争心を燃やすのは物間だけで、他のB組の生徒たちはあきれ顔だ。そして上鳴のツッコミが例によって鋭い。


「こちとら全員合格!水が開いたねA組!」


しかし物間のどや顔は、今回はちゃんと意味があったらしい。A組よりも合宿での被害が大きかったにも関わらず、B組は見事全員が仮免を手にしたのだという。
焦凍は深刻な顔になる。


「わりぃ……みんな………」

「いや向こうが勝手に競ってるだけだし気に病むなよ」


そんな焦凍にすかさずフォローを入れる切島。B組でも拳藤が物間に目つぶしを入れていた。
そうやってわちゃわちゃとしていると、さらに声がかけられた。


「おーい、後ろ詰まってんだけど」


やって来たのは普通科、声をかけたのは心操だ。飯田が慌てて謝罪すると、こればかりはこちらに非があるので道を開けて避ける。なんだか敵の多いA組である。
心操のことは久しぶりに見たが、どこか体格が良くなったような気がする。


「心操君、久しぶり」


すれ違いざま、灯水は話しかけてみた。騎馬戦以来、話せていなかったが、元気にしているか気になってはいたのだ。


「…あんた、大丈夫そうだな。あんな事件巻き込まれときながら」

「心配してくれてんの?」

「いや?しぶといなって」


心操がニヒルな笑みを浮かべるので、灯水も苦笑した。心操らしい返しだと思った。ヒーローになりたくても個性が向いていない現実を突きつけられ、それでも努力している心操。慣れ合う必要もないが、たまにこうやって話せたらいいと思う。


少し揉めつつも、ようやくA組はグラウンドに集まった。他のクラスも続々と集まり、それは圧巻の隊列となる。
快晴の青空はいまだギラついた太陽の輝きを残し、残暑とは言葉だけの真夏日だった。本校舎のガラス張りの壁面に反射する日光が二つ目の太陽のように眩しい。

その校舎をバックに、根津校長が登壇する。お立ち台の上にさらに台座を乗せて立っているネズミの姿だ。


「やあ!みんな大好き小型哺乳類の校長さ!」


ひょい、と小さな手を上げて挨拶する姿は一見愛らしいが、そのあとに始まった毛並みの話は非常にどうでもよく、しかも結構な尺を取った。前方の方では、さっそく飽きたのか上鳴が尾白の尻尾をモフっているのが見える。

やがてライフスタイルの乱れが毛並みの乱れになるという至極どうでもいい話から、そのライフスタイルの乱れについて、根津は少し声質を硬くして話を続けた。


「ライフスタイルが乱れたのは皆も知っての通り、この夏休みに起きた事件に起因しているのさ」


合宿の襲撃と神野区の事件だ。あの事件によって、横浜市の一角が壊滅し多くの犠牲者が出た。
そして、平和の象徴が、引退した。
オールマイトはトゥルーフォームで前方の教師列に控えていた。
柱であるオールマイトの引退の影響は急速に出ており、社会に待ち受ける困難は大きなものになっていく。


「特にヒーロー科諸君にとっては顕著に表れる。2、3年生の多くが取り組んでいる校外学習(ヒーローインターン)も、これまで以上に危機意識をもって考える必要がある」


インターン。聞きなれない言葉に、A組も少しざわついた。職場体験ならやったが、インターンという名前であるからには、体験よりも発展的な形だと思われる。

以前の職場体験は、灯水自身が体育祭後の大きな迷いの中でふらふらとしていたし、何よりステインとの戦闘に巻き込まれたことで数日ムダにした。
あれはあれで大きな経験でもあるが、しこたま怒られた記憶もきちんと残っているので、灯水としてはあのときと大きく変わった現状でもう一度近しいことができるのなら興味があった。


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