焦凍、焦燥、衝動−3
「じゃあまぁ…今日からまた通常通り授業を続けていく。かつてないほど色々あったが、うまく切り替えて学生の本分を全うするように」
教室に戻ると、相澤がいつもの朝のHRを始める。始業式から授業開始である。
始業式であったインターンの話に触れない相澤の様子に、芦戸が蛙吹にひそひそと話しかけると、目ざとく相澤が気付いて睨みつけた。
「なんだ芦戸」
「ヒッ、久々の感覚!」
「ごめんなさい、いいかしら先生」
相澤がざわつく教室を鎮めるいつものヤツをお見舞いしたところで、蛙吹がきちんと挙手して発言した。芦戸やほかの生徒と同じく、インターンについてだ。
「さっき始業式でお話に出てたヒーローインターンについて聞かせてもらえないかしら」
「それについては後日やるつもりだったが…そうだな、先に言っておく方が合理的か」
髪をがしがしとしながら、相澤は時間を確認して簡単に話し始めた。やはり、職場体験の本格版で、校外でのヒーロー活動を行うものらしい。
「……体育祭の頑張りはなんだったんですか!!??」
すると突然、麗日ががたりと立ち上がりながら声を上げた。一応挙手しているが、前の飯田の席まで大きく揺れている。
その飯田も、麗日の言葉にうなずいた。
「確かに、インターンがあるならスカウトをいただかなくても道が拓けるか」
「インターンは体育祭で得たスカウトをコネクションとして使うんだ。これは授業の一環ではなく生徒の任意で行う活動だ。体育祭で指名をもらえなかった者はむしろ活動自体が難しいんだよ」
つまり生徒の方から能動的に動いて行うものであり、生徒からスカウトというコネを使って事務所にお願いをするということだ。
相澤が話すことには、昔こそ事務所からの募集だったが、雄英の生徒をどこが引き入れるかで事務所どうしが揉めたために、このような生徒が動く形になったという。
「分かったら座れ」
「早とちりしてすみませんでした…!」
意外にも丁寧に説明した相澤に麗日が礼を言って着席すると、相澤は現状について説明を続けた。
どうやら学校側は一連の事件を受けて慎重になっているらしく、仮免を取った者は一律インターンをする資格はあるものの、学校としてそれを認めるかは意見が割れているそうだ。
「まぁ体験談なども含め、後日ちゃんとした説明と今後の方針を示す。こっちも都合があるんでな」
もしかしたら、一度誘拐されている身である灯水は難しいかもしれない。それでも、灯水は掴めるチャンスは掴みたいと思った。オールマイトがいなくなった社会において、根津も言っていたように、若者はその後継者なのだから。
***
寮に帰ると、爆豪と緑谷は共有スペースでゴミをまとめていた。そういえば謹慎だったと思い出す。
峰田と瀬呂はさっそく壁際に指を当てて、埃が残っていることを姑のように弄った。
ソファーには、切島と砂藤、芦戸が今日の英語の難しさをシリアスな顔で振り返り、耳郎や葉隠、尾白はインターンについて話している。それを、緑谷も爆豪も少し焦ったような顔をしながら聞いていた。ちなみに謹慎組には授業の内容などは言ってはいけないことになっている。
「インターンかぁ」
灯水は隣を歩く焦凍に何とはなしに呟いた。ガヤガヤとする共有スペースを抜けて、2人はさっさと自室、というか焦凍の部屋に向かっていた。
「まさか行くのか」
「えっ、あぁ…うん、行けたら行きたい」
すると焦凍は軽くを目を見開いた。その反応を不思議に思いながらも、灯水は自分の考えを話した。
「俺は一回誘拐されちゃったし、ダメって言われるかもだけど…でも、俺はもっと上目指したい。せっかくチャンスがあるなら利用したいって思うよ」
「………そう、か」
灯水は焦凍の顔が曇っていることに気づいて足を止める。焦凍も、エレベーターより少し手前で止まった。どうにも反応が芳しくないというか、そんな強いリアクションをされるような話のつもりではなかった。
「…焦凍?」
「……いや、なんでもねぇ」
まただ、と思った。はぐらかし、焦凍はエレベーターのボタンを押す。話す気がないのは悪いことではない。だが、灯水はやはり胸につっかえた様な感じがしてしまう。きっと、灯水は切島たちにこういう気持ちにさせていたのだろう。
改めてそれは反省しつつ、焦凍に対してどうにもできないことをもどかしく思った。