生来、将来、信頼−2
ついに部屋の前までやってくる。
ミリオはそこでくるりと振り返ると、灯水の方を向いた。
「サーから事前に、1人ずつ通すよう言われてるんだよね。まずは灯水君」
「え、はい!」
緑谷とコントすることになったら絶望的だなと思っていたこともあり、1人ずつということでひとまず持ちネタを思い浮かべる。
緑谷は廊下に待機し、ミリオと扉を開いて中へ入る。
「昨日お伝えした1年生連れて来ましたよね!」
そうミリオが言いつつ入った部屋では、背の高い男が、女性ヒーローをくすぐり地獄と書かれた機械に拘束してくすぐりの刑に処しているところだった。とんでもない光景に思わず足が止まる。
男は、メガネを光らせながら振り返る。サー・ナイトアイ、オールマイトの元相棒のプロヒーローだ。
「バブルガール…ユーモアが足りなかったようだね…」
どうやら相棒らしいバブルガールというヒーローは、ようやく止まったマシンの上で息を切らしていた。そこから離れて、ナイトアイはツカツカと執務机に向かい、高価そうな椅子に座る。
ミリオに背中を押され、まずは灯水はその机に向かった。
そして、タブレット端末と一枚の書類を取り出してその机に置く。
「あの、これ電子履歴書と学校の契約書です」
そう言って表示した画面には、父炎司の炎の髭がハートを描くあの写真が映し出された。
「アッ、間違えました」
「ブフッ」
横で見ていたミリオが噴き出す。さらに、灯水は机に置いた書類の近くに、小さな氷像を出現させた。
「あとこれ、文鎮にどうぞ…ダヴィデヴァーです」
それはダヴィデ像を模したエンデヴァーの氷像だった。ボケを重ねてみせれば、緩んでいたナイトアイの口元がじわりと上がり、「フッ…」と小さな笑いが漏れた。それにつられたようにミリオが大きく笑いだす。
「あっはっは!だ、ダヴィデヴァー…!君、平然と父親を笑いものにするよね!!」
「こういう人ほど茶化さないとって思うんです」
「シュール系か。じわじわと尾を引く点は非常に有用だ。いいだろう、合格だ」
「えっ、本当ですか!」
「嘘はつかん」
なんと、これで良かったらしい。ぽん、とナイトアイは契約書に判を押した。ミリオの方を見ると親指を立てられる。しかし、インターンの採用がこんな簡単なことで良いのだろうか。
「あの、自分で言うのもなんですが、これで良かったんですか…?」
「ミリオから話を聞いた時点で採用だった。ユーモアもそうだが、体育祭本戦での活躍やミリオに怪我をさせられたことも評価している。実力に申し分ないのは、私に限らずどの事務所もそう判断するだろう」
体育祭とは、そういうものだ。あそこで目立つことがいかに重要か、改めて痛感する。実力的には問題ないからこそ、ユーモアさえ示せれば良いということだったようだ。
「…実の息子である君に言うのは僅かばかり心苦しいが、現No.1ヒーロー・エンデヴァーは世間から評判が芳しくなく、人々の不安は大きい。その中で、エンデヴァーの息子として知られる君がユーモアある姿を見せれば、人々は安心する。父親も含めて、一家そろって大丈夫だと、君の存在1人で示せる。だから、君を早く世間に出さねばならない」
「…父のことは、その通りです。もし俺が、少しでもオールマイトがいなくなったあとの社会で安心材料となるのなら…」
灯水は拳を握り、あの神野区の夜を思い出す。オールマイトはあの夜、この国にとっての希望だった。
「…『少し』なんてレベルじゃないくらいになって社会を照らせるようになりたいです」
「……そうか」
満足そうにうなずいてくれたナイトアイ。少しでも、なんて謙虚な姿勢でいるはずもない、なぜなら灯水は雄英生。少し、なんてレベルに甘んじるつもりなどないし、そのためにインターンをするのだ。