生来、将来、信頼−3
ナイトアイは入れ替わりに緑谷を呼ぶようミリオに言った。そして、同時にミリオとバブルガールは退室を命じられる。灯水も廊下待機となった。
すれ違いざま、頑張れという意味を込めて緑谷の肩を叩き、ミリオたちとともに廊下に出る。扉が閉められると、灯水は息をついた。
「よ、よかった…」
「まぁ〜分かってたけどね!」
「ねぇ君、あのエンデヴァーの息子で体育祭でラスボス扱いだった子よね?」
安堵のため息をつくと、労わる様にミリオに背中を叩かれる。そんな灯水にバブルガールが興味津々といった感じで話しかけて来た。
「ラスボス…まぁ、はい」
「わっ、あの有名人がインターンしに来るってなんかすごい!」
「そんな…これからです」
自分はまだまだだ。事実、ミリオにまったく歯が立たなかった。インターンで何かを掴みたい、そう思ってここにいる。その一歩をようやく踏み出せると決まったばかりなのである。
すると、室内から突然大きな音が響き始めた。壁や床、天井に何かぶつかるような轟音だ。
「えっ、なんだ」
「やっぱ元気だなぁ」
2人はさして驚く様子ではないが、灯水は心配になる。実技試験でもやっているのだろうか。灯水はそんなことはなかったため、緑谷のことを案じてしまう。
やがて音が止んだところで、一度室内に戻ることになった。
「ドアを開けたらポーズを取ろう」
「おっ、ミリオ君いいねそれ」
「ポーズ…」
普通に扉から入ることすら許されないのかと驚くが、とりあえずフォーメーションだけ先に決めて、灯水が扉を開いた。
「失礼します」
「失礼しまぁす!!」
灯水が扉を開けてさっとしゃがみ、ミリオとバブルガールが後ろで大きな声で言いながら腕を広げる。灯水は両腕をまっすぐ両側に、ミリオとバブルガールば対称に体を傾けてポーズした。謎の3人のポーズに特に何も言わず、ナイトアイは「採用だ」とだけ告げた。
「わぁすごいやったあ!」
「良かったね緑谷君!」
それを聞いて喜ぶミリオと灯水だが、一番驚いているのはなぜか緑谷だった。
部屋はやたらと荒れており、ナイトアイの個性、「予知」に対して立ち回ったとすればやはり緑谷はすごいと思う。
緑谷自身は必ずしも喜色ではなかったが、決意に満ちた表情をしていた。
***
帰りの電車。
早速明日からコスチュームを持って出勤するよう言われたあと、3人は雄英に帰るべく電車に揺られていた。変な時間なので人は少ない。
ミリオ、灯水、緑谷と並んで横に座り、窓の外に過ぎていく市街地の街並みを見ながら過ごす。片道1時間はなかなか遠い。
「…そういえばさ、灯水君」
「ん?」
「轟君と、なんかあった?」
「あー…」
すると、緑谷が聞きにくそうにしながらも尋ねて来た。なんだかんだ保須の事件からずっと一緒に過ごしているので、2人に良くないことがあったのはすぐ見抜いたようだ。
「喧嘩しちゃってさ。俺がインターン行くの、なんか反対っぽくて。俺誘拐されちゃったし」
「そっか…確かに轟君、あのとき相当参ってたし…まぁ、それは僕もだったけど」
大事な人を誘拐された衝撃を共通して持つ緑谷は、轟の気持ちも分かるらしい。灯水は、察することはできても完全な共感はできない。双子といえどもだ。
「…俺たち、双子だけどさ…俺、あいつが今何考えてるか、全然わかんない」
ぽつりと漏らしたのは本音だった。あの夜の出来事はもちろん話していないため、緑谷からすれば脈絡がないだろう。
「…僕は、詳しいことは分からないけど。灯水君は夏が明けてからはっきり変わった気がする。良い方向に。だからきっと、2人ならちゃんと新しい関わり方になれると思うよ」
「緑谷君……」
笑ってそう言ってくれた緑谷の言葉は、無条件に今の灯水と焦凍を認めてくれるものだった。2人なら大丈夫、というニュアンスの言葉は、まさに灯水にとって、欲していたものだったのだろう。