死穢八斎會戦/前編−9
ロックロックに叱咤されて走り出した一行だったが、ミリオが先陣を切ってからかなり時間が経過している。戦闘中だとすればかなりまずい。
これまで戦ってきた者たちは命も惜しくないという捨て身の人間ばかりで、そんなヤツらが護衛でもしていればさすがにミリオも苦戦するだろう。
しかも相手はかなり用意周到に準備をしている、治ア本人にまでヒーローが及んだ場合の対策がないはずもない。違法薬物で増強していることも分かっている。
そうしたここまでの出来事から考えるに、時間稼ぎをしてくれているリューキュウたちや天喰、ファットガムと切島など心配なメンバーもいる以上、敵連合の影すら見える中では一刻も早く事件解決に至らなければならない。
そこで灯水は、先にミリオに合流することにした。すでに入中が確保されているため、妨害もあまり考えられない。
「ナイトアイ、イレイザー、俺が先行します」
「轟…?」
「だいたいの場所さえ教えてもらえれば、詳細な居場所は特定できるので」
「どうやって」
ナイトアイは突然の灯水の言葉に訝しそうにする。場所の正確な特定ができる個性ではないからだ。
「このゴーグル、サーモグラフィー機能がついてるんです。しかも、温度差が大きければ壁の向こうの熱源が分かります。大まかな場所さえわかれば、その周囲の遮蔽物の温度を下げて治アやルミリオンの場所を特定します」
「なるほどな…」
発目が作ってくれたこのゴーグルは、灯水の個性を使って最大限に索敵を行うために作られたものだった。霧氷などを使っているときに目を保護するために使ったことがあるが、それ以上機能を持っているのである。
霧氷の中での敵の特定だけでなく、例えば蛙吹の擬態やミリオの透過で場所が分からない相手にも使える。
この中で最も機動力がある灯水が先行できれば少しは作戦の進展になるかもしれない。
「分かった、先行してミリオのもとへ」
「了解です」
「…気をつけろよ」
相澤は引き止めたそうにしていたが、事態が急を要するだけあって否定しなかった。緑谷も頷き、灯水は足に力を籠める。
ナイトアイにだいたいの場所を聞いてから、灯水はすぐに足から蒸気を噴き出して飛び出した。
飛ぶように廊下の景色が通り過ぎて行く。入中が作り出した空間はすぐに消えて、元の廊下を進み、更に階段を上がってまっすぐ。
ナイトアイに指示された通りの順で進んでいくと、廊下の途中に扉が見えた。その先は塞がっている。
いったん灯水は立ち止まり、辺りを注意深く見渡した。
廊下を塞ぐ壁は明らかに最初に見たものと同じで、元からの構造ではないことが分かる。
ここまで準備をしていた相手だ、すでにこの部屋にエリはいない可能性が高い。むしろ罠が張られている恐れすらある。
灯水はゴーグルを装着すると、床に手を当てる。内側だけを凍らせるのだ。目を閉じて集中し、一気に辺りの床、壁、天井をすべて内側で凍結させた。
目を開くと、吐息が白くなって漂うのが見える。
続いてゴーグルのサーモグラフィー機能を、右横部分のスイッチを押すことでオンにした。その途端、ゴーグルが画面となって、目の前の光景が青から赤へのグラデーションで表示された。
その状態で辺りを再び見渡すと、面白いくらいにすべてが青くなっていた。自分だけが赤や黄色になっている。
そんな中、壁の向こうにモヤのような赤い色が見える。3,4人だろうか。動いていることから、これが交戦中のミリオと治アたちであると踏んだ。
これだけ分かれば十分だ。
灯水はゴーグルを外して、首元の定位置に戻すと目の前の壁から数センチのところに手を翳す。これを壊せば、向こうは命を懸けた戦いが繰り広げられる戦場だ。
大きく息を吸って吐く。まだその息は白い。その冷たさが、頭を冴え渡らせた。
そして、灯水は超臨界水によって目の前の壁を溶かした。両手で下から上に円を描くように超臨界水を噴き出すと、一瞬にして壁は溶解し、二酸化炭素の煙が立ち上る。壁が崩れる前に蹴り飛ばして向こう側に崩して、その隙間から向こう側に躍り出た。
その瞬間、ミリオがエリを庇って銃弾に撃たれるのが見えた。