死穢八斎會戦/前編−8


灯水がロックロックの止血を行い、緑谷がナイフを拾うと、今度はどこからか大きな奇声が響いてきた。
「キエエエ!!!」という声は、突入した一同の中に思い当たるような主はいない。直後、壁や床、天井、周囲のすべてがゆがみ始めた。つまり、この声は入中のものと考えてよい。
しかも先ほどよりもかなり大規模で、一瞬にして空間は一切の平面の存在しないカオスな場と化した。
あちらこちらから警察の悲鳴が聞こえてくる。

相澤は慌ててロックロックを抱え、緑谷と灯水はうねる地面に何とか立っている。


「声だ!聞こえたな!!」


相澤が大声で言うが、この広い空間ではどこから聞こえて来たのかまでは分からない。壁の中にいるとすれば、もはや緑谷にしか引きずり出せるパワーはないだろう。
ならば、灯水はそれを確実にさせるのみ。

灯水は指先から水の糸をパッと拡散させると、周囲のコンクリートに触れさせた。そこから、コンクリート内部の水分子の動きを感知する。


「緑谷君、ちょっとフォロー頼む」

「え、うん!」


目を閉じて集中するため、灯水は身動きができない。そんな灯水を、緑谷は抱え上げて移動した。緑谷の体温を感じながら、指に伝わる水の動きを辿る。
ここまで激しいことになっていると分かりにくく、だいたいの方向しか分からないが、それでよい。


「…上から流れてるのか」


入中は恐らく、壁の中に入って操っている。それならば、入中を起点としてコンクリートは動いているはずだ。視界に入る空間では無差別な動きをしているだけで地中の動きは別である。
上から、コンクリートの水分子が動いてくるのを察知すると、今度は上に向かって水の糸を突き立てる。今度は横の動きが感じられた。


「…緑谷君、天井のあの辺だと思う」

「分かった、ありがとう!」


指さした方向は上部、だいたいの場所は分かったが、残る正確な場所は声でも出してくれないと分からない。
緑谷は示した方向に強く意識を向ける。

それから数秒後、再び怒声というか、奇声が響き渡った。その声量は大きく反響するが、灯水の情報と合わせて考えると特定は容易だった。
すぐに緑谷は飛び上がると、入中がいるであろう位置の壁に思い切り蹴りを入れた。

コンクリートは粉々に割れ、中から緑谷のキックが直撃した入中が落ちてくる。すかさず相澤が個性を消し、入中は抵抗する術を失った。
落ちながらも何か叫んでいるが、何か分かる前にナイトアイの5kgに及ぶ押印が飛んだ。ただの印鑑がまるで銃弾だ。それが頬に直撃した入中は、一瞬意識を飛ばす。入中を緑谷がキャッチして地面に下ろすと、コンクリートの移動が終わったことで集合してくる警察やナイトアイのもとへ向かった。
灯水と相澤も合流する。


「生き迷宮が終わったのはいいが、これじゃ前後も分からない」


そんな中、警察の1人がぐちゃぐちゃになった辺りを見渡してぼやく。確かに、と灯水も「これがほんとのコンクリートジャングルですね…」と呟いた。


「エリちゃんの部屋への方向なら私が把握している。あと轟、ユーモラスだ」

「ありがとうございます!」


どうやら進路自体はナイトアイが把握しているようだ。警察の指揮官が入中に復元を要求するが、薬が切れたらしい入中は震えるだけだ。
指揮官は顔をしかめ、迷宮状態のあたりを警戒するように見る。


「しかしまだ、トガとトゥワイス…敵連合がどこかにいるはず…!」

「トガ…トゥワイス…あいつら裏切りやがって許さねぇ!!」


すると、強い憎悪からかその名前には入中は反応した。ナイトアイは動じるでもなく、他のメンバーの居場所を尋ねるが、入中は知らないと怒鳴って喚き散らした。


「ここにいるのは2人のみ、ということか…」

「我々警察も無視できん…」


相澤含め、どう動くか一同が迷っていると、ゆっくりとロックロックが意識を取り戻して起き上がった。


「…なーに突っ立ってんだ…無視して進め!敵連合は警察に任せて置け!俺たちの最優先事項はなんだよ!!??」


皆が稼いだ時間を無駄にするな、とロックロックは怒鳴った。それに全員が奮い立たされる。ヒーローとして最優先するべきは、今も困っている女の子を救け出すことだ。
ロックロックは入中の見張りも兼ねて、この場に留まるという。

ヒーロー組は警察に敵連合を任せ走り出すことにした。


「必ず救け出します!ロックロック!!」


緑谷が振り返りながらそう言うと、ロックロックは不敵な笑みを浮かべた。


「言ったな…!?必ずだぞ、デク!!」


きっと、ロックロックは口こそ悪いが良い人だ。まだ子供でもある灯水たちを、大人として同等に扱わなかっただけだ。しかし、ここまで活躍してきた雄英生たちを認め、大人として今、送り出してくれたのだろう。


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