死穢八斎會戦/後編−9
「思うに…エネルギーなんじゃないか、と…思うんだ…己が強く望む未来…疑念が入る余地のない、強いビジョン…望む…エネルギー……きっと、緑谷だけじゃない…みんなが…強く1つの未来を信じ、紡いだ…そのエネルギーが収束され、放たれた結果、なんじゃないか……」
強い信念、強い目的を持っている者が発揮するエネルギーということだろう。
エリを救ける、それは今日の件に参加したすべての者が共有していたものだった。そのために必要なことは、全体として求められていることは何かを、それぞれが考えて行動した。
リューキュウ事務所が最初に足止めをしてきた者を引き受け、バブルガールたちが地下通路入口で組員を拘束してその場に留めた。これは迅速な地下への進入を可能にした。
入中の変形によって分断されたあと、時間稼ぎをしようとした窃野たち3人を、天喰はプロの力を温存させるという目的のために食い止めてくれた。全体として、プロの力が今後必要になると見抜いていたのだ。
同じように、相澤の力をあとに残すべくファットガムと切島が身代わりとなり、心配しながらも灯水たちをロックロックは送り出した。その激励によって、灯水は先行してミリオに合流した。
あのミリオのヒーローらしい一面が力となって、エリは緑谷に救けられるべく手を伸ばし、戦闘が地上へ展開されると住民の避難や重傷のヒーローたちの保護が同時進行で行われた。エリを救け、そして誰も命を落とさないために。
「未来は不確かで…あなたは考えを改めてくれた…私は、それで十分…ただ、思い残すのは…」
そこへ、どたどたと足音が響いてきたと思うと、扉が開け放たれた。入って来たのはミリオで、看護師に後ろから制止されているのを聞かない。
「サー!ナイトアイ!!」
「……ミリオ、」
「だめだ!生きてください!死ぬなんてダメだ!!」
ミリオはベッドサイドに駆け寄ると、もう涙を零しながら必死にナイトアイのベッドへ身を乗り出した。その目の前には、大量の管が繋がれた大きな腹の穴がある。
「ミリオ…つらい目に遭わせてばかり…私がもっとしっかりしていれば…」
ミリオは個性を失い、怪我をおしてここへ来ている。治アが言ったことを踏襲するつもりなどないが、これまでの努力に対しての結果とは信じたくないような、そんな結末だ。しかしミリオは涙ながらに否定する。
「あなたが教えてくれたから強くなれたんだよ!!あなたが教えてくれたからこうして生きてるんだよ!!俺にもっと教えてくれよ!死んじゃダメだって!!」
個性を失ってもなお、灯水が援護していたとはいえ治ア相手に互角の近接戦を繰り広げたミリオは、確かにナイトアイのところで学んだことがなければ殺されていたかもしれない。
いつも笑顔を絶やさないミリオが涙で顔を濡らすのを見て、灯水は俯く。視界に入るリノリウムの床が滲み、目元から水滴が零れてはクリアになり、すぐにまた視界は滲んでしまう。
すると、ナイトアイの声がぽつりと落ちた。
「………大丈夫、お前は誰より立派な、ヒーローになってる」
顔を上げると、ナイトアイがミリオの頬に手を当てて、個性を使っているところだった。予知した未来は、ミリオのヒーローの姿を描いていたようだ。
「…この未来だけは……変えては、いけないな……」
手を下ろすと、ナイトアイは穏やかに微笑んだ。安らかに、まるで息子を見る父親のようでもあった。
「だから、笑っていろ」
「うう、ううう…!!!」
それを聞いてミリオは緑谷の腕とオールマイトのシャツを掴む。それは縋るようなものだった。ナイトアイは、いつも言っていた言葉を繰り返す。
「元気とユーモアのない社会に、明るい未来はやってこない」
それを最期に、心電図の無機質な平たい音が響き渡る。それをかき消すようにして、ミリオの慟哭が病室に満ちた。