死穢八斎會戦/後編−8
急に意識が浮上するような、そんな感覚で目が覚めた。
目が自然と開き、視界には白い天井が広がる。柔らかいベッドで寝ているようで、あぁ、終わったんだな、と漠然と思った。
灯水が起きたことに気づいた看護師にいくつか質問をされて答えたあと、医者が診断する。特に現状、痛いところはなかった。
「まだ麻酔が効いてるだけです。とはいえ、概ねリカバリーガールのおかげで治ってはいますよ」
「そう、なんですね」
「抉るような形での傷なので、回復には少し時間がかかり、特に左ふくらはぎと右腕の方の傷は向こう1週間程度は使えないと思ってください」
「分かりました」
さすがに1週間くらいは覚悟していた。むしろ、あの戦いでそれで済んでよかった。ミリオたちのことが気になるが、医者に入れ替わりで相澤が入って来たのでこちらに尋ねることにした。
「…イレイザー、」
「痛みはないか」
「大丈夫です、あの、」
「分かってる。今回ばかりは非合理的だが、緑谷のところに行く道中で説明する」
合理的な手段であれば、緑谷と合流してからまとめて説明するだろうが、さすがにこの状況では相澤もそれは致し方ないと判断してくれたようで、あのあとどうなったのか話してくれた。
灯水が意識を飛ばしたあと、エリの力が暴走して緑谷が苦しむ中で、治アはその力によって完全にあの巨体から分離された。相澤が個性を消したことでエリは意識を失い、緑谷はことなきを得た。回復していたため無傷だそうだ。
八斎會幹部と治アは全員逮捕され、現在移送中。ヒーローと警察の半分が、あの大男の個性によってダウンしていたが一時的な衰弱だった。リューキュウ事務所とインターン生もそうだったらしい。
途中で足止めした天喰、相澤を庇ったファットガムと切島、トガに刺されたロックロックも命に別状はなく、後遺症もない。けがの程度は灯水よりひどいようで、しばらく入院だ。
エリは高熱に浮かされ、個性暴走の恐れから隔離されている。ミリオは大けがではあったが、リカバリーガールによってそれなりに回復しているところである。
そして、ナイトアイは。
***
緑谷と合流してやって来た、ナイトアイの病室。
中に入ると、バブルガールとセンチピーダー、そしてオールマイトがいた。緑谷には時間の都合上、ナイトアイの病状を話す前にここに着いてしまった。
オールマイトがいることに驚く緑谷に、バブルガールが答えた。
「私が呼んだの。だって、サー、いつもオールマイトのこと…!」
そう言って目元を覆う彼女を、センチピーダーが労わる様に肩を抱く。
その横で、医者とリカバリーガールが目を伏せる。
「手の施しようがなく…正直、生きているのが不思議なくらいで…」
「こうもなってしまっては、治癒ではどうにもならないな…」
「残念ながら…明日を迎えることは、かなわないでしょう…」
2人が言う通り、ナイトアイはもう、助かる見込みはなかった。腹部を完全に喪失し、腕まで断裂していたため、失血量も多くこれ以上の処置は不可能だったのだ。
今わの際であるために、オールマイトが呼ばれたのである。
灯水は、ヒーローとしてのナイトアイ以上のことを知らない。オールマイトとなぜ相棒関係でなくなったのか分からないし、どんな確執があったのかも知らない。しかし、ナイトアイがオールマイトのことを考え続けていたのは、あの事務所を見れば明らかだった。
ナイトアイは静かに、酸素マスク越しに語る。
「私はこれまで…あなたが殺される未来を変えたくて…変える術を探って来た…ずっと…どうにも、ならなかった…私では、どうにも、変えられなかった…」
オールマイトが殺される未来。
それは恐らく、オール・フォー・ワンを巡ることに関係しているのだろう。神野区についてではないようだが、こうしてトゥルーフォームでしかいられなくなってしまったほどに力のないオールマイトには、依然として命の危険があるらしい。
「だが…今日、緑谷が見せてくれた…私はずっと、拭い去ることができなかった…「変わらない」「変えられない」…そんな考えが…常に頭の片隅に…」
緑谷はオールマイトが殺される未来と聞いても驚いた様子は見せなかった。知っているのだろうか。もともとオールマイトと浅からぬ関係のありそうなヤツだと体育祭の頃から思ってはいたから、あまり不思議でもない。
そんな緑谷は今日、ナイトアイが予知した治アに殺される結末を防いだ。未来を変えてみせたのだ。