″ヒーロー″−2


廊下の角に立っていたのは、オールマイトだった。彼もミリオの部屋を訪れようとしていたのかもしれない。
緑谷が必死に言うものだから、声量が大きくオールマイトのところでも聞こえたことだろう。


「…聞いちゃったよね」


オールマイトはおずおずと聞いてくる。わりと挙動が可愛らしいところがある大柄な男だ。あの位置で聞いていなかったはさすがに通用しないだろう。


「…聞いてました」

「……君は頭がいいから、その……」


頭がいいのかどうかは別として、灯水は緑谷の言葉から仮説をすでに出していた。

個性の譲渡が可能であるというのが、あの状況と緑谷の切羽詰まった感じから事実だとする。
そうすると、譲渡が可能であるということを「どのように知ったか」が重要だ。つまり、譲渡が可能ということは実際に譲渡が行わなければ分からないはずだ。
いったいどうやって最初に譲渡が行われたのかは分からないが、緑谷の個性は少なくとも、ある程度計画的だったことだろう。場当たり的、偶然の譲渡であれば、リスクを考慮して、思慮深い緑谷がこんなことを言いだすはずがない。

そして、緑谷は個性が体に合っていないような状態が続いていた。今だって、本気を出すことができない。エリの力でようやくという感じだった。
緑谷の話では個性の発現が遅かったということで、爆豪の様子からそれは事実だと分かる。
緑谷が言っていた中学終わり頃に個性が現れたという話、No.1ヒーローがなぜか静岡の折寺という大きくはない街にいてヘドロ事件を解決したこと、今年度から雄英に赴任したこと。

USJの事件のときに緑谷が焦っていて、なぜかオールマイトをただ1人心配していたことや、神野区の事件でオールマイトがすべての力を出し切ったこと。

すべて、オールマイトが緑谷に個性を譲渡したと考えれば辻褄があう。もともとオールマイトの限界が近く、先ほど言っていたような「後継者」を探すために雄英へやってきて、そんな中で雄英から近い折寺の街に居合わせた。そこで緑谷と出会い、何らかのことがあって緑谷に個性を譲渡、それを周囲には遅い個性の発現で通している。
個性を譲渡した後だったから、緑谷はしばらく体をボロボロにし、オールマイトはUSJで限界が近かったために心配されていた。そして、神野区で最後の力を振り絞り、引退となった。


その仮説をオールマイトに話すと、オールマイトはため息をつく。


「いやはや…本当、君は考えるのが得意だね」

「それしか焦凍との差異がなかったんで…」

「あっ、ごめんそんなつもりじゃ…」


こちらはこちらで灯水の事情もそれなりに知っているようだ。申し訳なさそうにするオールマイトに苦笑する。


「こちらこそ、盗み聞きみたいになってしまって…ナイトアイと何かあったっていうのも、ミリオ先輩が後継者だったらなんて緑谷君が言っていたのも、一連の個性継承に関係してるんですね」

「その通りだよ。私の…今は緑谷少年の個性、ワン・フォー・オールは、遺伝子を摂取することで譲渡が可能だ。もちろん、本人に受け継がせる意志がないといけないんだけどね」

「公表していないのは継承者が危険だからってのは予想が簡単です。どれくらい知っている人がいるんですか」

「根津校長やリカバリーガール、私の友人でもあるセメントスや塚内警部、ナイトアイ、グラントリノ、そして緑谷少年と爆豪少年だ」

「…爆豪君?」

「喧嘩のときにね。彼、神野事件で私を引退させたと自責に駆られていて…緑谷少年がうっかり個性をもらいものだと言ってしまったことがあって、私から受け取ったと彼も推測していたこともあったから、正確なことを教えることにしたんだ」

「そんなことが…」


緑谷とオールマイトが関係しているという焦凍と灯水の予測もおおむね当たっていたようだ。まさか個性の譲渡が可能だとは思わなかったが。
様々な不可解だったことがここで解決し、灯水はすっきりしたが、オールマイトとしては気が気でないだろう。


「轟少年兄…このことは、」

「分かってますよ。誰にも言いません。まさか継承者が爆豪君や俺にまでうっかり広めるなんて、ちょっと呆れちゃいますけど」

「否めないけど一応弟子として庇うよ…彼はまっすぐだから…」


それには笑いだけ返して、灯水はミリオの病室の方を見る。緑谷はもう行ったようだ。


「俺はミリオ先輩に挨拶してから帰ります。緑谷君には一応、俺が知っちゃったってこと伝えるんで、他に俺がこの件を知っていることを知っておくべき人がいるならオールマイトからお願いします」

「分かったよ、ありがとう」


もとから緑谷とオールマイトの関係には疑いがあったのだ、特に動揺はない。灯水にとって何のメリットにもならない情報なので、ある意味でそれを知っているのはむしろ鬱陶しくもあるが、何かと問題に巻き込まれるA組最大の問題児である緑谷が少しおとなしくなれば、それはそれで良いのかもしれない。


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