″ヒーロー″−3
オールマイトと分かれ、本来の目的であるミリオの部屋の扉をノックする。かなり時間を食ってしまった。遅刻しそうだ。
ミリオの元気な応答を聞いてから、扉をスライドして中に入る。オールマイトは後で挨拶しに行くと言っていた。
「先輩、轟です」
「お、灯水君か!」
中に入ると、ベッドの上であぐらをかくミリオがいた。その笑顔と、あのとき、灯水が突入した瞬間にミリオが撃たれた場面が重なる。
「…っ、先輩、おれ、」
「なんだなんだ、今日の一年生は元気ないなぁ!」
思わず声を詰まらせながら言うと、ミリオはあっけらかんと笑う。そして、灯水を引き寄せて、頭をぽんぽんと撫でた。ニッとミリオの笑顔がすぐ近くに広がる。
「辛気臭いとカビ生えちゃうぜ!」
「……たらればなんて、って、分かってるんです、でも…あと一瞬でも早ければ…!」
あと僅かでも早く入れれば、氷結によって防げたかもしれない。拳銃を向けるところにさえ居合わせられていれば。そんな仮定の話に意味がないと分かっていても、目の前で個性を失ってしまったミリオのことを考えると、自分を責めずにはいられなかった。
今回の作戦では、流動的に事態が目まぐるしく動く中で、灯水は指示のままにしかほとんど動けなかった。状況把握で精いっぱいだったのだ。思考が先行しすぎていたのだろう。そのロスをした自覚があるため、余計にミリオに間に合わなかったことが悔やまれた。
ミリオは少し困ったように笑う。
「灯水君にはつらい役回りばっかさせちゃったな」
「っ、それは、先輩でしょう…先輩のがつらいのに、俺、ほんと情けない…」
「まぁ俺先輩なんだよね!そこは経験値だよ」
今度はガシガシとかき回すように頭を撫でられる。おとなしくそれを受け入れていると、扉が開く音がする。
「やっぱりここにいたか」
「イレイザー…」
入って来たのは相澤だった。ミリオは会釈する。少し涙目になりながら頭を撫でられている灯水を見て、相澤は呆れたようにしながらも、しょうがないな、というようなため息をついた。
「指定した時間に来ないから何かと思えば…」
「怒らないでくださいよイレイザー、灯水君はまじめだから…」
相澤も、灯水がどうしてこうなっているのかは当然理解しているのだろう。長いぼさぼさの髪をかきつつ、「そうだなァ…」と呟く。
「俺たち大人の責任でもある。通形やナイトアイ、それぞれの大変なときにお前に任せきりにしてしまっていたのは申し訳ない」
「そんな…俺は、結局、ミリオ先輩のことも、ナイトアイのことも…救けられませんでした。目の前にいたのに…俺のせい、とまでは思わないし、俺の実力であれ以上のことができたのかも疑問ですけど、でも……」
頭では分かっているのだ。灯水にはあれが限界だった。仮免を取ったばかりの1年坊にできることなどたかが知れている。緑谷のように強い攻撃力を持つわけではないため、近接戦が不可能なあの状況で治ア相手にどれだけのことができたのかと言えば、答えは明白だ。
それでも、目の前でミリオは撃たれ、ナイトアイは串刺しにされた。あの瞬間が、目に焼き付いて離れない。
特にナイトアイが重傷を負ったとき、灯水は迷ってしまった。どうすればいいのか分からなくなって、頭が真っ白になってしまったのだ。とっさに動けた緑谷とは違う。結局、ミリオに言われてようやく戦闘に向かえた。
「…通形はプロ以上の力を持つ、最もNo.1に近い男だと言っただろう。お前が理解している通り、あの状況であれ以上のことはできなかった。メンタルだってそうだ。通形の強さは、まだ轟兄には至れないところにある」
はっきりと教師に言われれば、灯水は頭での理解を補強してもらえるようで、少しだけ心は軽くなる。だが、きっともうこれはどうしようもないし、ミリオも相澤もそれは分かっている。
「…プロになって俺も久しいが、救えた人よりも、救けられなかった人の方が多く記憶にある。どれだけの数を救けても、きっと救えなかった人の記憶の方が多いままだろうな。そういうもんだ」
プロヒーローすら差し置いてヒーローとしての強さを持つミリオ、そして身近なプロである相澤。その2人のヒーローに言われるからこそ、灯水にとって意味があることだった。
人を救うということはそれだけ大変なことで、心の折り合いをつけていくことも、プロとして必要になっていくのだろう。
灯水は頷いて、またミリオに頭を撫でられてから病院を後にした。