英雄の学び舎−11


焦凍が階段を上ると、濃い蒸気の中、尾白が床の氷に縛られて動けなくなっていた。少し離れたところ、この部屋の入口の死角には葉隠のものと思われる靴とグローブ。最初の氷結からずっと凍っているようだ。申し訳ないと思わないでもないが、今は下で凍らされている灯水を助けるために一刻も早く終わらせたかった。


「足の皮が剥がれちゃ、満足に戦えねぇぞ」


そう言ってけん制しつつ、焦凍は部屋を進んだ。蒸気の中でも存在感を放つ、核兵器のところへまっ直ぐと。尾白たちの横を、通り過ぎる。

そのとき、突如として白いテープが目の前に現れた。それも、テープだけがだ。とっさに手から氷結を出しつつ尾白を見るが、尾白が動いた様子はない。これは葉隠だ。尾白の背中にでも待機していたのだろう、油断した。
テープに先に氷が触れてテープが動かなくなる。すぐ近くで女子の息をのむ音がした。

しかし今度は、膝に衝撃が走った。がくりと視界が揺れて、再びテープが視界の隅に舞う。


「確保!」


いつの間に氷を抜けたのか、尾白が焦凍の足を払ってテープを巻き付けたのだ。冷たい床に尻もちをつくと、近くで尾白と葉隠がハイタッチでもしているのだろう声がする。


「いえー!」

「いえ、えーい?どこ?」


焦凍は思わず愕然とする。いったい、何が起きたというのか。混乱していると、氷を踏むパキ、という音がした。


「俺は囮だよ、焦凍」

「っ、灯水…」


薄らいできた蒸気の中、氷から出てきたらしい灯水が微笑んで立っている。どう考えてもこのメンバーなら灯水が主力のはずが、盛大な囮だったという。それで何となく灯水の作戦が思いついて、ため息をつきたくなる。


「…なるほどな、真の意味で、俺たち双子の戦いってわけだ…俺じゃなきゃ、八百万とかだったら通じねえぞ」

「そうなんだよね、いや、くじ運だね」

「…でもな、俺だって、ひとりじゃねぇぞ」


そう言うや否や、部屋の窓ガラスが砕けた。突然のことに灯水たちが驚く。そして、そこから伸びてきた手が核兵器に触れた。



***



「や、やられたーーー!!!」


モニタールームに戻った灯水はそう言って頭を抱えた。隣で尾白が苦笑して「あれは仕方ない」とフォローしてくれる。

最後、これで勝ったと思った。こちらも油断していたのだ。
障子の個性が分かっていなかったのだが、思っていたよりも非常に高度な個性だったのである。障子の個性は複製腕、触手のように分裂する腕の先に体の一部を複製できる。複製された耳や目はかなり明瞭で、哨戒するにあたりビル内の人員の正確な配置まで分かっていた。
さらに、複製された場所からさらに複製が可能だったのだ。つまり、腕から腕を複製し、そこからさらに腕を、という風に腕を連続して複製していき、それによって3階の窓から突き破って腕が核兵器に触れられた。
焦凍に異常があったらインカムで知らせることにしていたらしく、障子は焦凍が捕獲されてからすぐに哨戒を行って核兵器の場所を突き止め、腕を複製した。

障子の個性の不明だった部分に、完全にしてやられた形である。


「それにしても、なぜ轟さんはあの部屋のトラップに気づけませんでしたの?」


オールマイトが仕切る前に勝手に講評の時間に入る生徒たち。オールマイトは苦笑して見守っていた。

トラップとは、灯水が仕掛けた焦凍対策だ。尾白が凍らないよう、事前に凍った足の形の氷、いわば氷の靴を用意し、そこに尾白が待機することでビルの凍結が灯水の氷より先に及ばず凍結を逃れた。
葉隠は尾白の背中に掴まり、テープを尾白の白い道着に隠して持っていた。

尾白の不自然な足元や肩の皺、葉隠のテープなどは通常なら気付けたはずだった。
しかし今回は、灯水の蒸気、それも灯水の最大出力のものと、階下の戦闘開始とともに葉隠が投げた手榴弾による2段構えの濃いものが満ちていたため見えづらかった。
さらに焦凍は、凍らされた灯水を早く助けなければならないという焦りでちゃんとした確認を怠ったのだ。それが、焦凍を確保するに至った。


「核兵器を、蒸気が届き、かつ灯水が氷から出られねぇ時間内に焦った轟がたどり着けるよう3階にしたのも、配置も、小細工も、全部灯水の計算通りってことか…こええ」


切島が冷気もあって震えると、隣の上鳴も引いたように同意する。


「つかよ、そもそも灯水を助けるために轟が焦るってとこまで予想して実際その通りだったって、やばくね」

「そこはほら、双子クオリティ!」


苦し紛れにそう言ったが、上鳴は「確かに」と納得していた。こいつはバカキャラだろう。


「…とまぁ、轟少年兄の策によって圧倒的強さの轟少年弟の攻撃を凌いだわけだけど、うん、双子っていいね!!」

「え、講評それだけ?」


オールマイトが適当に締めた。講評にしては随分お粗末だが、あまりにも灯水たち双子ならではの部分が大きすぎるので、それもそうかと切り替えることにした。
どちらにせよ、焦凍を捕獲する作戦がうまくいったのは個人的に少し嬉しかったりする。


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