USJの試練−4


昼休みになり、いつも通り焦凍のところに行こうとした灯水だったが、それより先に切島と上鳴がやって来た。


「灯水、一緒に飯行こうぜー」


上鳴に声を掛けられて、焦凍の方をちらりと見る。しかし、もう席にはいなかった。先にどこかへ行ってしまったらしい。
今朝の灯水の言葉は本心だ。ヒーロー科の面々と仲良くなっておくことは大事だと思う。中学だっていつも一緒ではなかったのだ、別に昼食くらい構わないだろうとすぐに判断する。


「行く行く」

「混んでるからはよしねぇとな」


2人について教室を出ると、廊下は食堂へと向かう生徒の波ができていた。複数人で行くとばらけることが多いのも仕方なく、それをすぐに学んだ1年生も最初から少人数て向かうことが多かった。

食堂に着くと、上鳴に先に行かせて、灯水は席を切島と3人分確保した。灯水の向かいに切島が座り、切島が隣の席を確保する形だ。


「切島君ってさ、その右目のとこの傷、どうしたの?」

「あぁ、これ?これな、俺が3歳のときに個性が発現して、硬化した手でこすって怪我したやつなんだ。この怪我負ったときに個性が出たから、記念みてぇなもんだな」

「なるほど、わりと痛そう」

「すげえ痛かったの覚えてるわ」


あっけらかんと笑う切島は、快活でとても話しやすい。クラスのムードメーカー的なヤツだろう。そういうのは天性の才なので、素直にすごいなと思う。


「灯水はオッドアイってやつだろ?それ」

「そうだよ。焦凍とは逆になってんの」

「へぇ〜」


右目の青い瞳を感心したように見る切島。超常社会になってからというもの、オッドアイなど珍しくもないし、瞳の色も多様化した。昔なら虹彩異色症という遺伝子異常だったが、遺伝子異常が桁違いに大規模化して現在の超常社会となったため、今やそんなことは誰も気にしなくなった。


「おまた、行って来ていいぜお二人さん」

「おっ、頼むわ」


そこへ上鳴が戻って来た。カレーが湯気を立てている。おいしそうな匂いが満ちて腹が鳴った。聞こえていないようなので良かった。


「今灯水、腹鳴ったろ」

「うぐ、」


と思ったらばっちり聞こえていたらしい。とっさに顔を逸らすと、上鳴がケラケラと笑った。


「かわいーとこあんじゃん、ウケる」

「うるさいな、」

「ほら行くぞー」


切島が呆れたように灯水の腕を引っ張るので仕方なくその場を離れる。
揶揄われるのなど滅多にない経験だったため、一瞬どうすればいいのか分からなくなる。そう考えると、中学までの人付き合いは、周りが灯水に合わせる一方的なものだったのだと気付いた。



***



しばらく昼食を食べているときだった。

突然、けたたましい警報が鳴り響いた。甲子園の号令音のようなもので、危機感を煽るタイプの音である。


『セキュリティ3が突破されました。生徒のみなさんは、速やかに屋外へ避難してください』


警報とともにそんなアナウンスが流れる。それを聞いて、上級生から我先にと非常口へ駆け出した。
近くで別の科の1年生が上級生に何事が尋ねていた。上級生の言うには、校内に侵入者があったことを示すアナウンスだという。この堅牢な雄英に侵入者などあり得るのだろうか。


「と、とりあえず俺らも行こう!!」


切島が立ち上がり、上鳴も続く。灯水も立ち上がったが、大慌てで走る生徒たちに逆に冷静になる。あの人込みによって身動きができない方が危険ではないだろうか。
そう思って立ったまま歩かずにいると、先に進んだ切島がこちらを振りかえる。


「おい、灯水、ってうお、」


しかし切島と上鳴はすぐに人に流されて見えなくなってしまった。お互い実力は分かっているので、2人がわざわざ灯水を探しに来ることもないだろうし、灯水も2人に強引に合流しようとする必要もない。
少し様子見を、と思ったところで、後ろから走って来た大柄な生徒に押されてバランスを崩した。


「うわ、」


倒れそうになって咄嗟に手を前に出すと、誰かにぶつかった。そのまま、その人に抱き留められる。


「すみませ、」

「大丈夫か」


パッと顔を上げると、見慣れた紅白の髪。


「焦凍…、」

「灯水も様子見のがいいって判断したんだろ。俺もだ」


抱き締めるように灯水を支えてくれているのは、焦凍だった。さりげなく人込みから守るように腕でしっかりと灯水をホールドしている。


「あ、りがと…」

「いや、いい」


焦凍が側にいるというだけで、混乱する周囲から切り離されたような感覚になる。新しくできた、いや、今までとは違い本当の意味で友達だと感じられるようなA組のメンバーと異なり、やはり焦凍は唯一無二の存在だ。改めて、そう感じた。




結局、侵入者はただの報道陣だった。どうにかしてゲートをくぐって入って来たらしい。
生徒たちの混乱も、機転を利かせた飯田の働きで収まり、幸いけが人は出なかった。その際の飯田がまるで非常口のマークのようなポーズで生徒の波の前に立ったという話を聞いて、混ざっておけばよかったと少し後悔する。
その功績があって、緑谷の指名のもと飯田が委員長に落ち着くこととなり、副委員長には八百万がつくことで確定した。

A組としてはそれで一件落着となったが、よくよく考えてみれば、雄英に報道陣が侵入するなど考えられなかった。学校のセキュリティシステムが国内トップクラスであるにも関わらず、一介の報道陣にそれを突破することなどできるわけがないからだ。
何者かがそれを幇助したが、学内に内通者がいたとしか考えられなかった。

いずれにしても、これは単なる報道陣の行き過ぎた取材では片づけられない、何か不穏なものを感じさせた。


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