USJの試練−10





「尾白君!!」


名前を呼びながら危なげなく着陸すると、びっくりしたように尾白がこちらを見た。


「灯水!?なんで、」

「加勢しに来た!」


すさまじい熱気に眉をひそめる。周囲の建物は、どうやら本当の火災ではなく炎を噴出するバーナーがあちこちに埋め込まれたもののようで、耐火性の物質で作られた強固な建物が並んでいるようだった。
だが炎は炎、その輻射熱が確実に体力を奪っていくのが分かる。尾白も汗を大量にかいていた。


「飛んで火にいる夏の虫ってなぁ!!」


すると、尾白を囲んでいた敵のひとりがこちらに攻撃の矛先を向けてきた。予想通り、火を噴いている炎系の個性だ。だが、その肌は汗で光っている。


「…自分たちのこと?」


そう返してやると、灯水は周囲の炎に手をかざした。灯水の炎を操る力は、炎の形状を変えたり動かしたりすることで、その増減は不可能だ。しかし、物理的に燃焼作用を促進することをすれば普通に炎は増す。
つまり、バーナーによって自動的に炎が一定量出続けているこの施設は、どんなに炎を操っても炎が供給され続ける恰好の場所ということだ。

灯水は大量の炎の波を造ると、こちらに走ってくる男に業火を浴びせた。直後、男の悲鳴が響く。炎系の個性といえど、体がそもそも炎に耐性がなければ普通に火傷を負う。
炎に包まれるのではなく、ぎりぎりで輻射熱による火傷を負わせるにとどめた。でないと死んでしまう。


「尾白君、炎そのものに耐性あるやつは直接攻撃しかない、任せた!」

「おう!」


灯水は尾白と背中合わせに立つと、周囲の敵を睨みつけるように観察する。異形型の者はもれなく炎に強いだろう。そうでない人と同じ肌の者はとりあえず炎そのものへの耐性はないと仮定する。
再び炎を操ると、人肌の敵に向けて炎の塊を銃弾のように撃ち出していく。しかし、なかなかこの規模の炎を操ったことがないために、形がぶれて弾丸のような細かさにならない。結果、普通に大きな火球が敵に襲い掛かった。


「ぎゃあ!!」

「なんだこれ追ってくるぞ!!」

「あ、ごめん…」


そんなつもりではなかった。
すると、それをものともせず異形型の敵が走って来た。後ろでは尾白が交戦を再開している。そちらに送客したいところだ。走ってくる異形型の男たちを、ぎりぎりまで引きつける。徐々に近づいてきたところで、その足元に一気に氷を広げた。突然足元が凍ったことで一斉に敵たちが転倒し、走ってきた慣性で滑っていく。それを促進するべく氷をさらに出して、敵たちがいる場所を滑り台のように斜めに浮かせた。それによっていよいよ敵たちは氷の上の滑落していった。


「おわあ!!」

「尾白君!後ろから5!」

「あいよ!!」


尾白は交戦していた敵にかかと落としを決めると、すぐに振り反って滑ってくる敵たちに次々と蹴りを加えていく。尻尾で地面を打って体を浮かせ、勢いをつけて殴る。武闘派なだけあり、その動きは俊敏だ。
だが、動きには疲れが見える。当然だ、こんな苛酷な状況で初めての実戦。1年生が始まって3日目にしてこれは普通ではありえない。


「尾白君、離脱しよう!爆発起こすから、俺のこと尻尾かなんかで抱えて!」

「えっ!?お、おう、分かった!」


灯水は空中に大きな水の塊の生成を始めた。黒煙によって見えにくいそれに、敵たちは気づいていない。じりじりと近づく敵を威嚇しながら、尾白はそっと尻尾で灯水の胴体を支える。
だいたい直径40メートルほどの水球になったはずだ。手から大量の水を上空に向け続けていたが、敵はそれを警戒してなかなか近づいてこなかった。今頃上空でとんでもない水の塊が浮かんでいるとは思ってもみないだろう。


「尾白君、飛んで!!!」


叫ぶように言うと、尾白はすぐに灯水を尻尾でからめとり、そして横抱きにした。いわゆるお姫様抱っこである。それに驚く暇もなく、灯水は形をとどめていた水の塊を燃え盛る町に落とした。尾白が尻尾でビルの屋上を叩く。同時に、灯水は蒸気を出してさらに高く飛んだ。


「おわ、」


尾白が驚くが、これで驚いていては持たない。
直後、膨大な熱に触れた水の塊が一気に蒸発した。液体から気体に変化するとき、水の体積は1700倍にもなる。その莫大な体積の変化が一瞬で起こることを、水蒸気爆発という。

突如として白い煙が町から沸き上がったと思うと、ゴオ、という暴風のような音とともに火災ゾーン全体が白い煙に包まれ、とてつもない爆風が吹き付けた。


「な、んだこれ!?」

「俺が調節するから動くなよ!」


足や手から蒸気を出して、爆風に翻弄される2人の体を支える。そして、目の前に迫る地面に向かって思い切り手から蒸気を出した。同時に尾白も尻尾で地面を叩いて勢いを殺し、なんとか無事に着地する。
どさりと倒れこんだ2人の後ろからは、いまだに弱まった風が吹き付けていた。


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