USJの試練−12
3人が水難ゾーンの水辺に着くと、中央広場の方が静かになっていることに気づいた。先ほどまで戦闘の轟音が響いていたはずだ。
様子がおかしい、と池越しに広場に目を凝らすと、そこには脳みそがむき出しになった大柄な異形型の男が相澤を地面に押さえつけていた。相澤の右腕は変な方向に折れ曲がり、肘の関節の筋肉や血管がむき出しになっている。頭付近の地面には血だまりができていた。
どう見ても重症だ。あの脳みそ男がそこまでやったのだろうか。
「先生…っ!!」
「ひっ、あれ、大丈夫なの…!?」
隣の尾白と葉隠も息をのんだ。灯水は足が笑うのを感じる。炎司に鍛えられてきたとはいえ、こんな光景は初めて見た。敵は雑魚ばかりだったから特に恐れることもなく対応できたが、これは話が別だ。プロヒーローをねじ伏せ、大けがを負わせているその圧倒的実力。そして、その力でもって人を殺そうという、明確な殺意。殺気と殺意は違う。人を殺めようという狂気は、実際に触れなければ分からないのだと、ここで初めて知ったのだ。
同じくこの凄惨な光景を見ている緑谷たちは、池の淵に水中に半ば隠れるようにしていた。ここから少し離れており、敵たちに気配を悟られずに接近するのは難しい。
立ち竦んでいると、手首男の周りにワープの靄男が現れた。あの3人が恐らく主犯格だ。何やら話している男たちは、特に手首男が苛立ったようにしているのが見て取れる。
いったい何を、と思った瞬間だった。
突然、手首男が池のほとりに現れた。その手は、蛙吹の頭にかかる。何をする気か分からないが、個性による攻撃なのはすぐ分かる。標的を生徒に移したのだ。
「なっ、蛙吹さん…っ!」
だが、何も起こらない。男の手は確かに蛙吹に触れているが、蛙吹には何の変化もなかった。男が手を離して後ろを睨むと、そこにはなんとか顔を上げて男を睨む相澤。個性で男の力を封じたようだ。
しかし、直後に脳みそ男によって相澤の頭は地面に叩きつけられる。葉隠の押し殺したような悲鳴が落ちる。
今度はそれと同時に、緑谷が水中から出て手首男に殴りかかっていた。また次個性を使われたら今度こそ蛙吹は男の手にかかる。一発でビルを吹き飛ばすほどの個性だ、緑谷のパンチが直撃すればただでは済まない。
それらはすべて一瞬の出来事だったのに、緑谷のパンチは脳みそ男に受け止められていた。目にもとまらぬ速さで、相澤のところから移動していたのである。緑谷も、蛙吹も、峰田も、今度こそ絶体絶命だ。
(いつまで突っ立ってんだよ…このまま見てるだけとか、そんなふざけたこと…!)
灯水は内心でそう奮起する。ここでただじっとしているために、今まで努力してきたわけではないのだ。
「…んな、ふざけたこと…してたまるか…!!」
灯水は低く噛み締めるように呟くと、池の水に触れて全力で個性を発動した。
瞬間、蛙吹たちの後ろから大量の水の塊が竜のように立ち上がった。その水の勢いによって蛙吹と峰田が引き寄せられ陸から距離が空き、手首男のリーチから外れる。
「灯水…っ!」
「灯水君!?」
後ろから尾白と葉隠の驚く声がする気がするが、よく聞こえていない。それほどまでに集中していた。
水の柱は勢いよく脳みそ男にぶつかるが、男はびくともしない。むしろ緑谷が水圧と男に掴まれた腕の痛みに苦しそうにしていた。
「だめか、なら…!」
今度は水を男の腕だけが出るように調整して当てた。緑谷と緑谷を掴む脳みそ男の腕だけが水から出るようにしておく。そして直後、一気に灯水がいる地点から水の柱までを凍結させた。男は一瞬で氷に閉じ込められ、緑谷は腕が緩んだ隙に脱出する。
吐いた息が白くなるほど温度が下がった。ぎりぎり蛙吹たちは凍っておらず、蛙吹は峰田を舌で絡めとって急いでその場を離れた。
「おー、すごい個性だなぁ、さすが雄英。あの爆発もお前か?」
すると、こちらに気づいた手首男が酷薄な笑みを浮かべて声をかけてきた。こちらに向かって語り掛けてきたことで声が聞こえやすくなっていた。
それには答えず無視すると、突然、轟音とともに入口の扉が吹き飛んだ。
外の光を浴びて階段の上に現れたのは、無条件に人々が安堵する、絶対的存在。
「オール、マイト…」
「もう大丈夫…私が来た!!!」