USJの試練−13
施設内の視線を一身に浴びながら、オールマイトは上着を脱ぎ棄て、ネクタイを引きちぎる。その顔は笑っていない。いつもの笑みは浮かべず、怒りに歪めていた。この状況に怒っているのである。
脱ぎ捨てた上着がまだ宙を舞っている、その一瞬の間に、オールマイトは階段から噴水まで移動していた。道中にいた敵はすでに沈められている。そして相澤を抱き上げたと思うと、また掻き消えた。
まったく目で追えないまま、今度は緑谷、蛙吹、峰田が消え、相澤とともにオールマイトの後ろの地面にまとめられていた。その際、手首男の腹を殴っていったらしい。男は揺らめいて、落ちた手首の1つを慌てて装着しなおしていた。
男は脳みそ男に呼びかけ、灯水の氷に触れた。触れた場所から氷が破壊され、脳みそ男も自力で氷から脱出する。あの手首男の個性は、触れたものを粉々にするというもののようだった。
「な、んだあれ…」
「まったく見えねぇ…」
オールマイトはこれだけ豪快な動きをしておきながら、その一瞬たりとも灯水たちの目に留まらなかった。物理法則など存在していないかのようだった。服が派手な黄色でなければ、ワープしていたように見えただろう。かろうじて残像が掠めたような気はした。
声こそ聞こえないが、オールマイトは後ろの緑谷たちに入口へ向かうよう指示していた。それを見て、灯水もここを離れるべきだと判断する。
「やつらに人質になろうものなら迷惑じゃすまない、俺たちも離れよう」
「う、うん!」
灯水たちは水難ゾーンを迂回するようにして、入口へと向かうことにした。攻勢に転じたオールマイトの「CAROLINA SMASH!!!」という声と爆音が響く。ちらりと見れば、脳みそ男がオールマイトの攻撃を受け止めていた。
しばらく殴り合いを続けるが、脳みそ男に効いている様子はない。どうやらショック吸収の個性でも持っているようだ。
「あの脳みそ男、どうなってるんだろう…人、だよね…?」
葉隠が気味悪そうにするのも無理はない。そもそもビジュアルからして異様なのに、あのオールマイトの攻撃をものともしないのだから。
するとオールマイトは攻撃の種類を変えた。思い切り脳みそ男の腰を掴むと、そのままブリッジするように後ろへ男を放る。バックドロップだ。男が地面に叩きつけられると同時に、衝撃波と砂埃が爆風となって巻き起こった。ただのプロレス技がオールマイトにかかれば爆発同然になる。
「よし!」
尾白がぐっと手を握って喜ぶが、砂埃が晴れると、それがキレイに決まったわけではないことが分かった。
脳みそ男が叩きつけられたはずの地面は靄がかかっており、ワープしていた。その先はオールマイトの背面の下の地面。男はオールマイトの下の地面から上体を出して、オールマイトの腰に指を突き刺していた。
ワープホールは広がり、オールマイトが徐々に沈んでいく。この状態で考えられることはただひとつ、途中でホールを閉じてオールマイトを真っ二つにすることだ。
まずい、と考えるよりも先に、体が動き出していた。蒸気によって池の水面に飛び出てまっすぐオールマイトたちのもとへ向かう。するとその向こう、入り口の方から緑谷が、倒壊ゾーンの方から爆豪と切島が、土砂ゾーンの方から焦凍が同時に向かってきているのが見えた。それぞれの狙うところを察した灯水は、先ほど凍らせた池の表面に立つと、そこから手で氷結を繰り出す。
その直後、爆豪の爆破が靄を襲い、そのまま靄の実体部分と思われるところを掴んで地面にねじ伏せた。そして焦凍が脳みそ男の半身を凍らせてオールマイトを掴む腕を凍らせ、その拘束を緩める。
切島は手首男に殴り掛かるが、男はそれを避ける。それを狙った灯水の氷は、地面に到達すると先ほど脳みそ男への攻撃に使った水の水たまりを伝い、一瞬で手首男を捉えた。何もないところに氷を産むより、水を凍結させる方が速いのだ。