USJの試練−16
残された手首男は、圧倒的劣勢にオールマイトをひたすら睨み、「チートがぁ…!」と呪詛を吐く。
「どうした?クリアとかなんとか言ってたが…できるものならしてみろよ!!!」
あれだけの戦闘をしておきながらこの気迫、男もたじろいでいた。オールマイトの言う通り、生徒の出る幕はない。
「さすがだ…俺たちの出る幕じゃねぇな…」
焦凍もそう思ったのか、踵を返そうとする。爆豪も視線をオールマイトの方へやりつつ場を離れようとし、切島も緑谷を促す。
「緑谷!ここは退いた方がいいぜもう、かえって人質とかにされたらやべぇし…」
だが緑谷は答えない。その視線の先には、いらだったように首を掻き毟る手首男と、それをなだめる黒霧がいた。
「死柄木弔、落ち着いてください。よく見れば脳無に受けたダメージは確実に表れている…」
どうやらあの男は死柄木というらしい。そして黒霧はまだ、何かを画策している。これは本格的にここを離れた方が良さそうだ。追い詰められた敵が何をしでかすか分からない。
焦凍たちが完全にその場を離れようと歩き出したので、灯水もそれに続く。だが、緑谷が来ない。振り反って見てみると、何やらブツブツと呟いていた。
その向こうでは、黒霧と死柄木が一緒に駆け出してオールマイトに迫っていた。しかしオールマイトは動かない。黒霧相手に接近戦は無謀だ、なのになぜ動かないのだろう、そう思ったときには、すでに緑谷の姿が消えていた。
「なっ、緑谷君!?はやっ…!」
まるで、オールマイトのように一瞬で動き、拳を黒霧に突き出していた。目にも止まらぬ早さだからこそ、急には止まれない。黒霧のワープによって、反対側の死柄木の手が伸びてきていた。オールマイトから離れたがこれでは緑谷に手が触れてしまう。
灯水が何かをしても間に合わない。内臓が冷えたような心地がした、そのときだった。
突然、銃声が響いて死柄木と黒霧が咄嗟に離れる。相次いで銃声が響き、その方向を見てみると、入り口に並ぶ大勢の姿があった。
「1−Aクラス委員長、飯田天哉!!ただいま戻りました!!!」
いつの間にここを出ていたのか、飯田が自慢の俊足で本校舎からプロヒーローたちを呼んでくれていた。
入口に並ぶのは、雄英が誇るプロヒーロー。ここに、ついに雄英側の勝利が確定したのだった。
***
黒霧、死柄木については逃げられてしまったものの、これだけの侵入に対して、ほとんどの生徒が軽傷とも言えない怪我だけで済んだ。オールマイト、相澤、13号はそれぞれ大けがではあったが十分治療可能で命に別状はなく、緑谷も両足を骨折していながらもそれは自身の個性によるものだった。
その他、山岳ゾーンにいた八百万、上鳴、耳郎は個性の相性が良かったのかほぼ無傷で乗り切り、暴風・大雨ゾーンにいた常闇、口田も擦り傷程度だった。
灯水と尾白は火災ゾーンで少しだけ服が焦げたり、ちょっとした火傷をしたり、爆風で瓦礫が当たったりして傷があるくらいだがまったく問題はない。
「そういえば、途中のあの大規模な爆発はなんだったんですの?火災ゾーンの方からだった気がしましたけれど…」
「ケロ、私も気になっていたわ」
「私も気になってたんよ!いきなり爆発するんだもん、また敵の何かと思ってひやひやしてたんだ」
「爆発?そんなことが?」
八百万、蛙吹、麗日にそれぞれ言われギクリとしていると、昔ながらの警部の格好をした塚内という警察の男にも疑問を持たれてしまった。部下の1人がバインダーを見て、「火災ゾーンの大部分が壊滅的状況でした」と裏を取る。
「なんてことだ、あそこはお金がかかるというのに、許せないね敵」
さらには校長(世界で唯一個性を発現したネズミ。人間より優れた頭脳を持つ)までそう言いだすと、事情を知る尾白と葉隠、切島の目線が刺さる。
「男らしく素直に言えって!」
切島が肘で小突き、小さくはない声で言ったため、周りの目線までこちらを向いた。
「何か知ってるのかい?」
塚内がついに灯水の目を捉える。仕方なく口を割ることにした。
「その…俺が、水蒸気爆発を起こして乗り切ろうとしまして…尾白君と逃げるために…そしたら、思いのほかすごい爆発したんです。思ってたよりたくさん水の塊作ってたみたいで」
「なるほど…火災ゾーンは通常の火災と違って常に燃えている訓練用の特殊な区画、熱量も蓄積されて大きかったのですわ。それで大爆発に…」
そういえば、吹き飛ばしたあとそれを直さなければならないということに意識が向いていなかった。これが実際の市街地なら批難轟轟だろう。
「す、すみませんでした…」
「いやぁ、生徒が敵との戦いで起こしたことなら仕方ない。人命優先だよ」
校長が笑顔だと思われる顔で朗らかに言うと、塚内も笑う。
「ははは、豪快でいいじゃないか。これを機に、実際の市街戦では周囲の建築物に与える影響も考えて活動するのがプロの仕事だと覚えればいいさ」
この、大人に許されている、という感覚のむずがゆさやら気恥ずかしさやらで思わず俯くと、「灯水君かわいー」という葉隠の容赦ない女子特有の追い打ちがかけられて、ついに焦凍の後ろに隠れた。
さらには切島や上鳴まで「かわいいとこあんだよな、こいつ」と同調すると、耐えがたくなり顔に熱が集まるのを感じる。それは実際にシュウウウ…と蒸気となって噴き出し、顔や腕から漏れ出して焦凍の後ろに隠れている意味がなくなると、いよいよ笑いが起きていたたまれなくなってしまった。
こうして、USJでの攻防戦は幕を閉じた。だがこれは、A組に次々に降りかかる受難の、ほんの端緒に過ぎなかったのだった。