燃えろ体育祭/前編−2
放課後、授業がすべて終わり、これから2週間の準備期間に入るというところで、廊下がやたら騒がしいことに気づく。普段は下校の騒がしさといってももう少し落ち着いている。まるで、A組の前にだけ大勢いるかのようだった。
「何事かな」
「さあ…」
後ろの葉隠はリュックを背負って立ちながら扉を見るが、開けなければ見えない。灯水も首を傾げてから、焦凍のところへ向かう。一緒に帰るためだ。
「うおおお…何事だぁ!!??」
すると、先んじて扉を開いた麗日がそう言って動きを止めた。後ろの扉から出ようとしていた障子も、扉を開いて立ち止まる。
外には、灯水が思った通りのことが起きていた。大勢の生徒が教室内を興味津々に見てきているのだ。有名人でもいるかのようだが、その目線はただの興味というよりは探るような色が強い。
「あー…目ぇつけられてんのね」
「そういうことだろうな」
焦凍と廊下の先を見れば、どういうことか察した。今メディアでは、雄英高校が敵に侵入されたというニュースで持ち切りだ。しかも体育祭の通常開催まで宣言しているため、ニュースにずっと出続けているのである。
その侵入者と交戦したのがA組ということで、1年生を中心に体育祭に向けて様子を見に来たのだろう。
「出れねーじゃん、何しに来たんだよ!」
「敵情視察だろザコ」
峰田が緑谷たちと前方の扉の前で言うと、後ろから来ていた爆豪が冷静に罵倒つきで返答した。どうにも人を悪口でしか呼べない個性でもあるらしい。震える峰田を緑谷がなだめている一方で、爆豪は廊下の生徒たちを睥睨する。
「敵の襲撃を耐え抜いた連中だもんな、体育祭の前に見ときたいんだろ。意味ねぇからどけモブども」
「知らない人のこととりあえずモブっていうのやめなよ!!」
飯田の指摘も空しく、廊下の生徒たちは爆豪の暴言にざわつく。するとその後ろから、少し背の高い男子が人込みをかき分けてやって来た。
「どんなもんかと見に来たら随分偉そうだなぁ。ヒーロー科に在籍するヤツは皆こんななのかい?」
「あぁ?」
紫がかった髪を跳ねさせた男子は、目つき悪く爆豪を見据える。その後ろで緑谷と飯田が違うと必死にジェスチャーしていた。
「こういうの見ちゃうとちょっと幻滅するなぁ。普通科とか他の科って、ヒーロー科落ちたから入ったってヤツ結構いるんだ。知ってた?体育祭のリザルトによっちゃ、ヒーロー科編入も検討してくれるんだって。その逆もまたしかり…」
どうやら男子は自分で言う通りの経緯で普通科に入ったらしい。その目は、ヒーロー科を前にしても闘志を湛えていた。
「敵情視察?少なくとも俺は、調子のってっと足元ごっそり掬っちゃうぞーっていう、宣戦布告しに来たつもり」
男子はそれだけ言うと人込みの中を去っていった。度胸あるな、と思っていると、さらにやかましい声がぐいぐいと迫ってくる。
「隣のB組のモンだがよ!敵と戦ったっつーから話聞こうと思ってたんだがよ!えらく調子づいちゃってんなおい!本番で恥ずかしいことんなっぞ!!」
白に近い銀髪に鋭い目つき、堅気に見えないその男子生徒はもうひとつのヒーロー科、B組の生徒らしい。江戸っ子のような乱暴な口調だが、言っていることは割とまともだ。
あいつぐA組への批判的な声に、クラス内のジト目が爆豪に向かう。
当の爆豪はさっさと人込みをかき分けて帰ろうとし始めた。それを切島が慌てて引き止める。
「待てコラどうしてくれんだ!お前のせいでヘイト集まりまくっちまってんじゃねぇか!!」
「関係ねぇよ」
「はぁ!!?」
それに対して爆豪はちょっと振り返って答えるだけだったが、それはシンプルで的を射ていた。
「上に上がりゃ、関係ねぇ」
そう吐き捨てて爆豪は廊下を進んでいった。それを見て、焦凍も立ち上がる。しばらく様子を見ていたが、もう帰っていい頃合いだ。灯水も連れ立って廊下へ向かった。
「あいつと同じようなこと言っちゃった」
「思考回路似てるんじゃねぇか」
「俺より焦凍の方が口の悪さでは似てるかんね?」
だが爆豪の言う通りだ。灯水にとっても同じことをもともと考えていた。結局、どんな相手だろうとどんな策を練ってこようと関係ない。勝ち進めば、そこは己の力だけがある場所なのだから。