燃えろ体育祭/前編−3
次の日から2週間、体育祭に向けた準備期間が始まった。4月の後半をまるまる潰して、各自がそれぞれの準備を行う。
灯水と焦凍も、兄弟といえど勝ち進めば敵対することもあるだろう。手の内を明かさないという意味でも、会話が少なくなった。
もともと熟考するタイプの灯水は、まず自分にとって何が課題か、それを2週間でどう克服するべきか考えるのに一日費やした。闇雲にやっても本番まで怪我をしてしまえば意味がない。
焦凍は道場に籠っているようなので、灯水は庭の池のほとりで考えていた。小さな池の中を泳いでいる鯉たちを眺めながら考える姿勢は、焦凍とともに修行をできるようになると決意した4歳の頃から変わらないスタイルだ。
「一番の課題は、攻撃力…でもこれは、ずっと考え続けていまだに答えが出てない。この2週間でどうにかなるもんじゃないよなぁ」
こうして独り言になるのもいつものことだ。緑谷のようにブツブツというものではないから不気味ではないはずだ。以前、鯉に話しかけていると勘違いした冬美に心配されたくらいだ。
「攻撃力を直接的に身に付けることは無理だとして、できるのは作戦勝ち。工夫に工夫を重ねるタイプじゃないと…そのために必要なのは…」
真っ先に灯水が思い浮かべたのは、USJでの戦いだった。特に、火災ゾーンでの戦い。
炎のコントロールは、かなりおざなりにしてきた。蒸気と水のコントロールに時間をかけていたからだ。だが、炎系の個性は多く、熱源さえあれば非常に有用だと分かった。同時に、あの戦いでは思っていたようなコントロールができていなかった。炎もそうだし、巨大な水の塊も想定より大きくしすぎて火災ゾーンを吹き飛ばしてしまったほどだ。
「目に見えていなくても、思った通りの制御ができないといけない。あとは…」
蒸気はいいとして、炎と大きな水のコントロールも課題。残るは氷だ。
氷結は相手の行動を封じ、攻撃にも使える汎用性の高いものだ。しかし、焦凍はこれを主力としているため、あまり使いたくない。焦凍と同じでは、灯水の意味がないのだ。灯水と焦凍がまったく同じ個性だったら、焦凍の方が人材として優れている。
「焦凍との差異をつけるには、まず氷の精密なコントロールかな」
焦凍の弱点は、個性が強力であるが故におおざっぱであるということ。それなら、氷のコントロールを非常に精緻なものにしてみるのはどうだろうか。水や蒸気と違って完全な固体の形状を取ることもあり、「形」というものを制御できれば、氷をさらに工夫して使える。
ある程度固まったが、もうひと押し欲しかった。氷のコントロールの他に、これぞという焦凍との差異が欲しい。
考えながら池を見ていると、池の淵に茂る草の影に何かが見えた。いつもの風景として今までまったく気に留めていなかったものだ。
「…うわ、あれエンデヴァー人形じゃん…」
池の淵の縁石に引っかかり、下半身を池に漬けた状態で草の影に隠れていたのは、金属製のエンデヴァー人形だ。そういえば、炎司が商品化されたものを持って帰ってこっそり焦凍の机に置いて置き、それを焦凍が投げ捨てたのだった。
「オールマイトがいい」と言っていたのを覚えている。あれから10年近く経っているはずだが、ずっとここにあったようだ。水にさらされていたために、金属は腐食して錆びつき、もうボロボロになっている。
「…ん、錆…?」
あの人形は、単に水に触れていただけだ。だが、酸に溶かされたように腐食している。
「…、おっけーゴーグル」
灯水はポケットからスマホを取り出してそう呼びかけると、音声検索機能が自動で立ち上がる。そこで「水 腐食」で検索をかけると、ついに大きなヒントを見つけた。
「これだ…!よし、やるぞ」
先が見えた気がする。灯水は2週間の予定を立てて、すぐに行動を開始した。