燃えろ体育祭/後編−3


昼休憩が終わると、レクリエーション競技を挟んで最終種目となる。レクの前に最終種目のトーナメント式のタイマンバトルのくじ引きが行われるようだ。
一度出場者が前の方に集まり、やはりクラスごとに何となくまとまる。焦凍は少し離れたところにいて、灯水もA組集団の端にいた。


『さぁさぁ皆楽しく競えよレクリエーション!それが終われば最終種目、進出4チーム総勢16名からなるトーナメント形式!1対1のガチバトルだ!!』

「それじゃあ組み合わせ決めのくじ引きを行うわよ」


前のひな壇にミッドナイトが立って、白い箱を抱える。組み合わせが決まり次第、レクを挟んで本番となる。例年形式に違いはあれど、1対1での戦いになるのは一緒だ。


「んじゃ、1位チームから順に…」

「あの、すいません!」


そこへ、尾白が手を上げて口を挟んだ。周りからの注目を受けるその表情は硬い。まさか、と思っていると尾白はうつむきがちに言った。


「俺、辞退します」

「尾白君、なんで!?せっかくプロに見てもらえる場なのに…!」


近くにいた緑谷が言うと、A組や会場の視線を浴びながら言いづらそうに尾白が答える。ミッドナイトも注視していた。


「騎馬戦の記憶、中盤過ぎくらいまでほとんどないんだ。たぶん、ヤツの個性で…」


ヤツとはもちろん心操だ。心操はふいと顔を逸らす。別に彼が悪いわけではない、これも立派な個性による正当な戦いだ。
灯水は尾白のところまで歩いて引き留めようとする。


「ちょ、待って尾白君!確かに最初はそうだったかもしれないけど、でも中盤で目覚ましたじゃん!そのあとは一緒に、」

「灯水のおかげで中盤に目を覚ましたのは確かだよ、ありがとう。きっと、灯水がいなきゃ最後まで意識がなかった。でも、それでも結局俺は灯水の言う通りにしか動けなくて、操られてる状態と大差なかった」

「っ、そんなこと…!」


否定しきれるかと言うと微妙なところだ。中盤に意識を覚ましたことが心操にバレると再度操られるかもしれなかったことから、しばらく灯水がフォローしていた。最後だって、灯水の推進力で強引に進んだ。



「チャンスの場だってのは分かってる。それをフイにするなんて愚かだってのも…!でもさ、皆が力を出し合い争ってきた座なんだ、こんな…こんな訳わかんないままそこに並ぶなんて…俺にはできない」

「気にしすぎだよ!本戦でちゃんと成果を出せばいいんだよ!」

「そんなん言ったら私だって全然だよ!」


葉隠と芦戸も諭すが、尾白は首を横に振る。


「違うんだ!俺のプライドの話さ…俺が嫌なんだ。あとなんで君らチアの格好してるんだ…」


なぜかA組女子はチアガールの格好をしている。どうせ峰田あたりの策略だろう。
それにしても、顔を伏せてしまった尾白に、これ以上誰も声をかけられなかった。


「僕も同様の理由から棄権したい!実力如何以前に…何もしてない者が上がるのは、この体育祭の趣旨に相反するのではないだろうか!」


続いてB組の生徒(庄田というらしい)も棄権を申し出た。庄田に関しては完全に個性を解けないまま終えてしまった。
異様な事態に、采配は主審であるミッドナイトに託された。ミッドナイトは鞭を構える。


「そういう青臭い話はさぁ……好み!!!庄田、尾白の棄権を認めます!」


鞭を床に打ってミッドナイトは2人の棄権を認めた。空いた分にB組の鉄哲と塩崎という女子が繰り上がる。微妙な空気を払しょくできないままくじ引きが始まった。
その待ち時間、俯く尾白を見ていた切島がこちらに目を向けた。


「灯水は大丈夫だったのか?個性」

「え、あ、うん。俺は自分から声かけたから…」

「…じゃあ、尾白たちが個性にかけられてること、知ってたんだよな?解除の方法わかんなくても、最初から解くように言えなかったのかよ」


切島は責めるような口調ではなかった。そもそも皆、心操の個性の使用そのものを批判するつもりがないからなおさらだ。ただ、灯水が何を考えていたのかは知りたいようだった。


「…正直言うと、俺、騎馬戦の間ほとんど個性使えなかったんだ、反動で。だから終わるぎりぎりで攻勢に出て勝てる心操君と組ませてもらったんだけど、個性使えなきゃ俺だって無個性の普通の人間と一緒じゃん?2人にかけられた個性解いてもらうよう説得できる立場じゃ…」

「でも友達だろ?それくらい、」


事情を話すとなおも切島は尾白を最初から意識のある状態にできたのではと食い下がるが、尾白が灯水の肩を抱いて切島を止めた。


「灯水はずっと俺のこと考えててくれてた。責めるのはやめてくれ」

「っ、尾白君…」


本人が割り切って言うこともあって、切島はようやく、どうしようもないことだったのだと納得してれくれたらしい。途端に済まなさそうにして「わり、灯水に言うことじゃねぇよな」と謝ってくれた。それに首を振ると、爆豪が苛立ったように言った。


「いつまでもうじうじ言ってんじゃねぇ。なんにせよ棄権はそいつらの意思だろうが。当人以外は誰も関係ねぇだろ」

「そうだよな、爆豪の言う通りだったわ。よし、A組皆、出れなかったヤツの分まで全力でやろう!」


明るく切島が言うと、芦戸たちも大きくうなずく。本当にムードを変えるのがうまい。灯水をかばった尾白や本質を突いた爆豪に内心で感謝して、最終種目へ灯水も気持ちを切り替えた。自分こそ尾白の分まで頑張らなければならない。


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