燃えろ体育祭/後編−4
トーナメントの組み合わせの発表後、レクリエーションが始まった。本戦出場組は自由参加ということで、灯水はスタジアムを離れてA組控室にいた。離れた机では尾白と緑谷が心操対策をしている。少しだけ灯水も心操の個性の説明に加わったが、尾白と同じくらいの認識しかなかったため早々に離れて、ひとりで机に突っ伏している。
ガチバトル第1回戦では、第5戦が灯水の番である。相手は芦戸だ。
緑谷は第1戦で心操と、焦凍は第2戦で瀬呂と戦う。つまり、第2回戦でもう緑谷と焦凍がぶつかる可能性がある。
そして灯水は、芦戸に勝つと常闇か八百万と戦うことになる。両者とも強敵だ。第2回戦までに戦う可能性があるこの3人それぞれに違う作戦が必要だ。
芦戸は近接戦メインの戦法を取るため、間合いに入らせなければいい。氷結による遠距離の攻防一体の戦法でやるのがいい。
八百万については、創造の時間を与えないスピード勝利が必要だ。大きなものを作るのに時間がかかるということは、遠距離攻撃用のものを創造する時間さえ与えなければいい。
問題は常闇である。実質2人分を相手にするような個性である上に、中遠距離に対応できる柔軟なレンジを持つ。攻撃力、防御力、機動力どれをとってもクラス内トップだ。光に弱いという黒影を弱体化させる戦法が必要になるだろう。
そして準決勝で予想される相手。メンバーとしては鉄哲、切島、麗日、そして爆豪だが、恐らく爆豪が勝ち抜くはずだ。常闇よりも攻撃力と機動力が強い相手だ、攻撃力に乏しい灯水は苦戦する。
スポーツドリンクを多めに飲みながら考えていると、緑谷たちが立ち上がった音が聞こえた。
「まぁ俺から出る情報はこんなもん」
「ありがとう!ものすごいよ!」
「すごい勝手なこと言うけどさ、俺の分まで頑張ってくれな」
「!うん!」
緑谷は考えるためにどこかへと向かうのだろう、扉の開閉音がしていなくなった。残された尾白は、こちらに歩いてきた。
「…灯水、」
名前を呼ばれたので顔を上げると、いつもの柔らかい笑みを浮かべて尾白が立っていた。何となくさっきのことが思い出されて目を逸らす。
「…ごめんね。俺が謝ることじゃないのかもしれないけど。でも、俺、尾白君のこと、」
「分かってるって。俺の問題なのに気にさせてむしろごめん」
「そんな、」
尾白こそ謝ることじゃない、と言おうとして、尾白の手が頭に乗って言葉に詰まった。ぽん、と軽いそれは、言葉でなく手の動きで気にするなと二重で言ってくれているようだった。
「きっと緑谷が俺の分まで心操と戦ってくれるだろうし。次は俺の実力で確実に上に行く」
もう尾白は本当に気にしていない。なぜなら、もう前を向いているからだ。まだ前を向ききれていないのは灯水の方だった。尾白がそう言うなら、灯水も前を向かなければならない。自分の戦いに集中して、全力を出さなければならない。
「…俺だって、尾白君の分まで頑張ろうと思ってるし」
だからそう返すと、尾白はきょとんした後に苦笑した。そしてわしゃわしゃと頭を撫でられる。
「わっ、なに」
「…いや、なんつーか、灯水ってほんと可愛いとこあるよなぁって」
「俺男だからそういうの嬉しくない」
「俺だって男相手に言うと思ってなかったよ。灯水が悪い」
「どういうことだよ!」
むすっとすると尾白は「はは、」と朗らかに笑う。そして、しかと灯水の目を見つめた。
「うん、任せた。俺の分と、出られなかった皆の分」
「…わかった」
尾白のおかげで灯水もしっかりと自分の戦いを見つめることができそうだ。逆に励まされることになってしまって、まだまだ自分の至らなさを実感してしまうが、今できる全力を尽くす覚悟を決めるには十分だった。