双子のかたち−3
「なんつーか、さすがの人心掌握術だな」
「なんだそれ」
さっさと2人で帰路につくと、通学路には学生の数がまだまばらだった。大方、残って親睦を深めたり、このあと懇親会を兼ねたカラオケに行ったりでもするのだろう。
朝通ったばかりの桜並木を歩いていると、焦凍がいつもの無表情でそんなことを言い出した。少し天然なところがある焦凍は、時折こんなよく分からないことを言ってくる。
「始業初日にグループ侍らせてただろ」
「焦凍だって、あともう1割でも愛想がよければ同じだよ」
「くだらねぇ。灯水もよくやるよな」
それは悪口などではない。焦凍は、あの一瞬で灯水の顔を見ただけで灯水にとってあの生徒たちが有象無象に過ぎないことを見抜いていた。それでも愛嬌ある様を見せていることに純粋に感心しているのだ。人によっては誤解されかねない言い方であるが。
「もし俺らがヒーローになって、中学時代の友人とかいってテレビに出てきたヤツが『中学時代はすごく愛想悪くて嫌なヤツでした』とか言ったら困るじゃん。そういう意味ではメリットはあれどデメリットはない」
「デメリットあるだろ。俺との時間が減る」
平然とのたまう焦凍に呆れの目線をやる。何を言っているのだろうか。
「同じ寝室で寝て一緒に登下校して一緒に修行してまた同じ寝室で寝る生活してんの分かってる?ただでさえ近親カップルを噂されてんのに、これ以上一緒にいたらもっと誤解を招くわ」
「くだらねぇ。他人はいっつも邪魔するな」
ずれたところのある焦凍といえど理解はしてくれたらしい。しかし本気でむすっとしていた。
焦凍はすがすがしいほどに他人に興味がない。憎む炎司を否定するためにトップヒーローを目指す焦凍にとって、友達など邪魔でしかないのだ。そして、邪魔なものは徹底的に目もくれない。
誰にも関心が向かない分、灯水に対して焦凍の意識はフルで向いていた。家族の中でも、冬美や冷を凌いで灯水が一番焦凍から向けられるベクトルが大きい。
依存なのかもしれない、とはたまに灯水でも思うことだ。だが、それはどうでも良かった。それで焦凍の心の平穏が少しでも保たれるのであれば何でもいい。
「てかさ、焦凍は嫌じゃないの、俺とそういう関係を噂されんの」
「…灯水は俺と噂されんの嫌か?」
質問に質問で返すコミュ障ぶりである。苦笑しながら灯水は「焦凍が嫌とかじゃない、」と否定する。
「事実と違うこと噂されんのは気分悪いじゃん。相手が誰でも同じことだよ」
「なるほどな」
焦凍は納得したように頷く。捨てられた子犬のようなあざとい顔をしていたくせに、すぐこれだ。焦凍はマイペースで図太い男なのだ。
「焦凍はどうなの?」
「どうでもいい」
「そうだったね」
そもそも他人に興味ないのだ、どう噂されようと知ったこっちゃないのだろう。生きやすいのか生きにくいのか、灯水には判断しかねるスタンスだ。
そうやって話しているうちに帰宅すると、ちょうど玄関に炎司がいた。部屋着に燃え上がる髭。焦凍はその姿を見るなり舌打ちをしてさっさと寝室へ向かってしまった。
「こら焦凍ォ!挨拶ぐらいしたらどうだ!!」
完全に無視である。廊下の先に進んでいく焦凍の後姿に、炎司はため息をついた。
「…ただいま」
「焦凍!!今日はもう学校終わったのか!終わったならすぐに修行するぞ!…おい聞いてるのか!!」
「今日は始業式だけだからこれで終わり。焦凍も着替えてくると思うよ」
「…お前には聞いていないぞ」
灯水のことをいないように扱っていた炎司だったが、焦凍が完全に無視を決め込んでいるため仕方なく灯水に目を向けた。いくら一緒に修行をしているといっても、炎司の中で主力は焦凍、あくまで灯水はそのフォローということで、灯水は添え物扱いだった。
しかしそれも慣れてしまえばどうということはない。もともと灯水は炎司のことは嫌いとかいうような感情で接してはいないのだ。
「はいはい。なんでもいいけど、そういうの焦凍の耳に入んないようにやんなよ」
「生意気なことを、」
それ以上は聞いてやる必要もないため、靴を揃えて灯水はさっさと廊下の先へ向かう。炎司が灯水をいつまでも出来損ないと思っていようとどうでもいい。炎司が父親で、こうして灯水が生活しているのはすべて炎司のおかげなのだから、子供として最低限の必要な言動をしてやればいいだけだ。
ヒーロー・エンデヴァーは激情家だがムダなことはしない。使えるコマである灯水に対して壊すような真似はしないのだから、引き際さえ間違えなければ適当にやれば済む話だ。灯水はそう割り切って過ごしていた。