双子のかたち−4


焦凍が作り出した氷壁から、灯水は足から噴き出した蒸気によって空中で躍り出て炎司に向かう。両足から推進力の蒸気を出しつつ左手から方向を変えるための蒸気を出す。そして右手で殴り掛かるが、炎司は簡単に見切っていた。


「ワンパターンが過ぎるぞお前ら!!」

「うぐ、!」

「っ、!」


灯水は囮で、その蒸気の影から焦凍が飛び出て氷技を仕掛けるが、どちらも炎司に見破られていた。灯水は右手首を掴まれて思い切り地面に飛ばされ、焦凍は足を払われて地に臥した。
個性を使うとなるともはや道場では足りず、庭に出て炎司に対峙している。最近は中学も後半だからか、炎司の監督がつかず自分たちだけでやることが多かったため、こうしてたまに組手をするとボロボロに負ける。プロとの差をまざまざと見せつけられているようだ。


「っ、いって…」

「…ふん、脆弱なヤツめ。焦凍、次は1対1の体術だ」


蒸気を噴出した足や手の周りの氷結に痛みが走り、半燃の力で溶かしていく。その一方で、焦凍は炎司と直接組手に入った。

灯水の個性は結局、半冷半燃の複合型だった。炎こそ出せないものの、氷だけでなく、それを熱して水、熱湯、蒸気に状態変化させることが可能だ。また、外部の水や炎もある程度コントロールできる。日常的な体温調節にも使っている。
焦凍ははっきりと氷と炎が分かれているが、灯水の場合混合しているので、体のどこからでも氷や蒸気を出せる。工夫によっては非常に強個性で、今のように蒸気を足や手から噴出して飛ぶこともできるのだ。
ただ反動もある。氷は使いすぎれば体に霜が降りて自由に動けなくなるし、威力も弱まる。水や蒸気も使いすぎれば脱水症状を引き起こし、さらに悪化すると体温調節ができなくなり高熱、または低体温症になってしまう。
蒸気については、高圧の蒸気が噴き出すと周囲の温度を吸収して噴出する場所が凍り付いてしまう現象から、こうして定期的に溶かさないといけない。

蒸気を出した足の氷をゆっくり溶かしながら焦凍を見守る。氷を使った足技が多いために、焦凍は自然と炎司に対して蹴りを中心に仕掛けている。その速さはそこらのボクサーや空手家も及ばないようなもので、とても「誰かに守られる」ような姿ではない。


『焦凍を守ってあげて』


しかし、あの白い閑散とした病室で涙交じりに言った冷の声は、そうした物理的側面を示唆したものではなかった。

元凶である負い目がある焦凍は、あの事件から一度も冷に会っていないようだ。一方の灯水は月一くらいで会っていて、焦凍の様子を報告している。冬美やすぐ上の兄である夏雄は会いにて来ているが、焦凍は家族と隔離されていることが多く、主に灯水が焦凍のことを伝えていた。
冷は焦凍に大けがを負わせた責任を強く強く感じており、会うとすぐに「焦凍は元気?」と必ず聞いてくるほどだ。
そんな冷が、小学生の頃に灯水に言ったのが、「焦凍を守って」という言葉だった。そのためにヒーローを目指している灯水はすぐに頷いたが、それが物理的な意味だけでないこともよく分かっていた。
焦凍をひとりにしない。ようは、焦凍の心を守るということだ。本格的に修行をさせてもらえるようになった頃に冬美にも言われている。「焦凍を支えられるのは灯水だけだから、よろしくね」と。これまで家族にそう言ってもらえるよう頑張って来たのだから、2人にそう言われたことは純粋に嬉しかった。


「いい加減左を使ったらどうだ!」

「うるせぇ、俺はあんたの力なんて使わねぇ」

「駄々をこねよって!」


組手をしながら喋る2人。相変わらずの会話だ。
左に宿る炎司の個性を使わまいとする焦凍に対して、いずれやってくる限界を見抜く炎司。
混合型だからそういうことはできない灯水と違い、焦凍は明確に個性を使い分けられる。だがそうしたスタイルに、やがて限界が来るだろうと炎司は踏んでいたし、灯水もその可能性が高いことは分かっていた。

でもいずれ、焦凍も自分なりに答えを出すはずだ。灯水はそれを待ちたいし、尊重したい。今は使わないと言っているのだから、左を使わない焦凍を支えていくつもりである。
それが正しいことなのかは分からないが、最善と信じるほかないのだ。


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