迷い:期末試験−3
授業後、更衣室で着替えているときは授業の反省が行われることが多い。今回は機動力に特化した授業でもあったため、足りない部分をどう補うか、もしくはどう伸ばすかをそれぞれが話しながら着替えを進める。A組は男が多いためむさくるしいが、有意義で良い時間だと思う。
「俺機動力課題だわ」
2組目で最下位だった切島がぼやくと、隣の常闇が「情報収集で補うしかないな」とアドバイスする。常闇は3組目で1位だった。限られた機動力でベストを尽くすためには、相手の情報を掴んで的確に動くしかない。
「それだと後手に回んだよな。お前とか瀬呂が羨ましいぜ」
3組目で4位だった上鳴が上着を脱ぎながら先手を取れないことに唸る。皆が皆先行できる必要はないとも思うが、速さは必須の力だ。
「灯水、腕大丈夫か」
すると、隣で着替えていた焦凍が心配そうに聞いてくる。引き締まった体を晒している焦凍から目をそらしつつ頷く。
「大丈夫、大したことなかったから。前怪我したとこでもないし」
「そうそう!灯水珍しいな、あんなミス。どうしたんだ?」
そんな2人の会話が聞こえていたのだろう、上鳴が制汗シートで体を吹きながら尋ねる。周りもこちらに注目し、灯水自身もらしくなかったな、と反省しきりだ。
「ちょっと考え事してて」
「お前今日ずっとそうだろ。なんかあったのか?」
焦凍はさすがに気づく。今日はずっと灯水がぼうっとしていたのを見ていたようだ。なおも心配そうにしてくれている。
「悩み事か?いつでも聞くぜ!!」
「孤独に考えても詮無いことだぞ」
「灯水もヒーロー殺しで大変だったもんな、無理すんなよ!」
切島や常闇、上鳴がそう言ってくれた。とても人に話せることではないのだが、そう言ってもらえるだけで気が楽になる。良い仲間を持ったな、と思うと笑顔をつくれた。
「大丈夫、ありがと。気ぃ緩んでるだけだわ!集中しないとね」
「…そうか?それならいいけどよ」
なおも切島たちは心配そうにしてくれたが、本当に大丈夫だ。個性をフル活用する雄英の授業で集中を欠くことは非常に危険なのだ、もうこんなミスはしないようにするつもりである。体育祭のときも、とりあえずは目の前のことに集中すると決めたのだから。
***
6月最終週、期末試験まで1週間となったころ。
赤点の場合は夏休みの林間合宿に行けず補習になるということで、赤点予備軍たちが並々ならぬ決意をたぎらせていた。そのわりに伸びてはいないようで。
「まったく勉強してねぇーーーー!!!!」
「あっはっはっは」
最下位の2人、上鳴と芦戸は昼休みの教室で騒ぎ始めた。行事が立て込んだことで勉強時間をとっていなかった上鳴は頭を抱え、芦戸はひたすら笑っている。笑うしかないのだろうか。
「中間は入学したてで範囲狭かったからなんとかなったけどな」
砂藤の言葉にうんうんと頷く口田。2人は中くらいの成績だ。
「行事が重なったこともあるけど中間は…」
「演習試験もあるのがつれぇところだよな」
そこに加わったのは、2人よりさらに上の峰田だ。あれでいて意外にも成績が良く、上鳴たちにキレられていた。
時間を空けてから食堂に行こうとしていた灯水と焦凍、それに飯田と緑谷は、そんな騒ぎに目を向ける。緑谷は純粋な目で拳を握り上鳴たちに声をかけた。
「芦戸さん、上鳴君、が、頑張ろうよ!やっぱ全員で林間合宿行きたいもん!ね!」
「うむ!」
「普通に授業受けてりゃ赤点は出ねぇだろ」
緑谷、飯田、焦凍の他意のない純粋な言葉が上鳴を襲う。上鳴は胸を押さえて震え、「言葉には気を付けろ…!」と息も絶え絶えに言った。
緑谷は成績にして4位、飯田は2位、そして灯水と焦凍は5位である。例によって、2人は謎の双子パワーによって同じ総得点だったのだ。
「あー…昼食べにいこっか」
「そうだな!」
灯水たちがいても悪い刺激にしかならない。上鳴の精神衛生のためにも、灯水は焦凍たちと食堂に向かうことにした。
どうやら焦凍は飯田、緑谷と一緒にいるようになったらしく、いつものように焦凍といたら飯田たちも一緒することになった。
灯水はまったくそれで問題ないが、こういうふとしたときに焦凍との空いていく距離を感じてしまうのだった。