迷い:期末試験−4


その日の放課後。ざわざわとする教室内で、緑谷は上鳴たちに昼休みに聞いたことを共有していた。
それというのも、昼食中にB組の物間が絡んできたのをB組の委員長、拳道が止めた際に教えてくれたのだ。演習試験はロボットが相手なのだという。拳道が先輩に聞いたことということで、信憑性は確かだろう。
それを緑谷は優しくも上鳴たちに教えている。灯水は焦凍と帰る準備をしていた。


「ロボならぶっぱで楽勝だ!!」

「これで林間合宿ばっちりだ!!」


それを聞いた上鳴と芦戸はもろ手を挙げて喜ぶ。2人の個性は人に使うには制約が多く、調整が難しいからだ。


「人でもロボでもぶっとばすのは同じだろ、何が楽ちんだアホ」


それに水を差すように言ったのは爆豪だった。わざわざ言わなくてもいいのに、と思うが、律儀に上鳴は反論する。


「アホとはなんだアホとは!」

「うるせぇな、調整なんざ勝手にできるもんだろ、アホだろ!…なぁ、デク!」


突然その矛先は緑谷に向いた。爆豪は緑谷をまっすぐに睨みつけている。


「個性の使い方、ちょっとは分かった来たか知らねぇけどよ。てめえはつくづく俺の神経を逆なでするな」


クラス内はいつの間にか静まり返っていた。久しぶりに爆豪が正面切って緑谷に喧嘩を売っているからだろう。爆豪が言っていることがよく分からなかったが、麗日いわく、緑谷の救助訓練レースでの動きが爆豪のそれに類似していたからだという。


「体育祭みてぇな半端な結果はいらねぇ。次の期末なら個人成績で否が応にも優劣つく。完膚なきまでに差ぁつけて!てめぇぶっ殺してやる!」


爆豪は緑谷に指を向けて思いきりガンを飛ばした。緑谷は後ずさり、周りの空気も張り詰める。


「轟兄弟!てめぇらもな!」

「え、俺らも?」


爆豪はついでにこちらにも睨みを寄越すと、肩を怒らせて教室を出て行った。思わず灯水も声に出てしまったが、自覚がない。


「あいつ何怒ってんだ」

「さぁ…」


爆豪の真意はよくわからない。ただ、その眼光には焦りが見えた。レースのときもそうだったが、爆豪にも抱える何かがあるのだろう。



***



ところ変わって会議室。そこには雄英教師陣であるプロヒーローたちが集まっていた。今日の議題は期末試験の演習についてであり、先ほどロボットではなく対人演習とすることが決まった。


「次に組の采配についてですが…」


中心になって話すのは相澤。A組の担任として、演習試験の組み合わせについてリサーチしていた。その手元には生徒資料があり、集まった教師たちの手元にも同じものがあった。


「まず芦戸、上鳴の2人。良くも悪くも単純な行動傾向にありますので、校長の頭脳でそこを抉りだしていただきたい」

「オッケー」


今回の演習は、生徒たちにとって弱点となる教師を相手にさせることを目的としている。そうやって生徒の課題をあぶりだすのだ。相澤は個性や実力、性格などからその組み合わせを考えていた。


「轟兄弟。2人とも一通り申し分ないが、弟の方は力押しのきらいがあります。兄の方は機転を利かせてよく動きますが、どうにも最近は迷いがあるようで」

「迷い?」


ミッドナイトは首を傾げる。体育祭の主審だったときにそのような印象を抱かなかったため疑問に思ったのだ。


「職場体験の先方からの報告書です。ヒーローになることへの迷いがあるようだと」

「あそこは家庭の事情が複雑だからね。弟の方が吹っ切れて、兄の方が逆に迷うようになったんだろうね」


校長は人類をもしのぐ頭脳で簡単に推測する。相澤も頷いた。オールマイトも、ヒーロー基礎学のミスを思い出して納得していた。


「八百万は万能だが咄嗟の判断力や応用力に欠けます。ですのでこの3人をまとめて、俺が個性を消して近接で弱みを突きます」


八百万も体育祭以降、自信を喪失しそれがさらに判断力などを鈍らせているようだった。相澤は、大きく揺らいでいる八百万、灯水、そして爆豪を何とかしようという気持ちから、この演習試験を組み立てていた。
それは概ね正解だったが、唯一相澤に誤算があったとすれば、それは灯水の抱えるものがヒーローになることへの悩みという表面的な部分しか見えていなかったことだろう。
そればかりは、轟家の事情を詳しく知っていなければわかり得ないことだった。


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