夢主と考える国際経済シリーズ
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TPPとRCEP、2つの大型協定が進行するアジア太平洋地域の舵取りするのは、その真ん中にいる日本だった。
ちょうど日本とFTAを結ぼうと考えていたアルレシアは、日本の家を訪れて交渉を持ち掛ける。
「よっ、日本」
「こんにちは、アルレシアさん。ご足労ありがとうございます」
「いいって、これ土産ね」
手土産を渡して和式の屋敷に上がる。もちろんアポは取ってあったし、なんの話かも言ってあった。向こうも交渉する気があるということだ。
「今TPPで揉めてるだろ。調子はどうだ?」
「そうですね…交渉そのものは、品目によってかなり難航してますが、まだなんとか。国内での反対が大きいんです」
「俺もすごかったから分かるわ」
農業分野において、日本は国内からの反対が非常に大きく、交渉でも難航している。
「米は!絶対譲れないんですってば!!あと豚と牛と豆と乳製品!!」
「へーい日本!随分わがままじゃないかい!?」
「豚肉ぜってー輸入させるかんな!!」
と、いうように珍しく声を荒らげる日本と、譲らないアメリカ、オーストラリア。この構図は何度も目にした。
「まぁ、お前なら農業の自動化とかしそうだけどな」
「おや、なぜご存知なんです?」
「……え、マジで?」
日本は驚いたように言うが、こちらが驚きだ。
聞くところによると、日本の農業従業者年齢は平均で60を突破し、TPPが効力を100%発揮する10年後には70代になる。そんな産業は産業ではない。
つまり、TPPがあってもなくても日本の農業は消滅する運命にあるのだ。
そこで、AIによる自動化に向けて政府は考えを進めた。人がいないなら機械がやればいいというのだ。いずれ、日本の農業はスーツで行われる産業になる。同様に人が足りない物流も、自働運転と交通AIによって自動化するのだという。
「日本…お前ほんと未来に生きてんな…」
「もうどうせ人口増えませんし」
少子高齢化の解決策は色々とあるが、まさか人を変えることを諦め機械に頼るとは。感服しつつ、アルレシアは日本に交渉を持ち掛けた。
***
さて、日本はTPPにおいては国内農業の自動化を見越してある程度の妥協を始めた。基本的には、無関税輸入枠を拡大して一定の関税を残すことになる。一方で、工業品目は100%関税撤廃することになり、経団連が沸き立った。
さらに、日本は交渉の仲介にも乗り出す。
「私は構造改革までして自由化するんだぞ!それくらい妥協したらどうだ!」
「うるさいぞベトナム!新薬つくるのにどれだけ金かかると思ってるんだい!?」
開発に数億円はかかる新薬は、特許取得後、知的財産権として特許の保護期間が定められている。ただ人の命に関わるため、芸術などのような70年もの期間ではない。
アメリカやオーストラリアなどは、この保護期間をTPPでは10年にするよう求めた。特にアメリカは製薬業界の政治的圧力があった。
しかしベトナムなどASEAN組やチリなどは、後発医薬品、ジェネリックを生産することで儲けていた。ジェネリックは特許保護期間終了と同時に開発が可能になる。そのため、こちらは保護期間を5年で求めていた。
日本は製薬についてはさほど興味がなかったため、これを8年に仲介し、交渉を終わらせた。
このような立ち回りの末、TPPは無事に合意されたのである。
一方、日本はRCEPでは苦戦していた。
「そんな高い自由化無理アル!」
「私もそんなには無理ばい」
自由化をあまりしたくない中国とインドが低水準で求めるのに対し、日本や韓国、シンガポールなどは高水準で求めており、どれくらい自由化するかすら決められずにいた。
TPPで忙しいこともあり、日本はRCEPではさほど力を振るわずにいたのだが、2017年、状況が変わった。
アメリカがTPPをやめると言い出したのである。ベトナムはカチ切れた。
こうして東アジア諸国は一気にアメリカへの不信感を募らせ、RCEPにシフトした。すると急にRCEPは交渉が進み始めているのだ。
日本は何としてもTPPを締結するため、現在血の滲むような駆け引きをしているところである。
アジアも十分、複雑怪奇だよなぁ、と思いつつ日本とFTAを結ぶアルレシアだった。