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広大な海原を、直線にまっすぐ切り抜く高速道路。人工的な直線の地面が延々と続き、その上を自動車が猛スピードで駆けていく。
対岸はまったく見えず、水平線に向かって道路が鋭く伸びる様は雄大だ。
そこを、サングラスをしたオランダが運転するオープンカーで走るその助手席にアルレシアは座っていた。
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「神が人をつくったが、オランダはオランダ人がつくった」と言われるように、オランダは人工的な干拓と灌漑によってその国土が築かれた。古くは13世紀頃のテンプの造営に始まり、20世紀には世界最大級の開発事業、ゾイデル海開発が始まった。
オランダ中央部のゾイデル海は、北にワッデン海という北海の一部と繋がっており、北海で嵐になるたびに洪水などの被害をもたらしてきた。
それを防ぎ、新たに農業用地を増やして食糧生産を確保しようという目的でこの大事業は始まった。
まずはゾイデル海と北海とを繋ぐ部分を、巨大な堤防によって締め切り海と切り離し淡水化するということで、1927年にアフシュライトダイク(大堤防)の建設が開始された。
全長32キロにも及ぶ巨大な堤防は1932年に完成し、ゾイデル海は外海から遮断されて淡水化、アイセル湖となった。
アイセル湖は水位の低下によって干拓が行われ、半分近い面積が干拓地になった。
アフシュライトダイクは1933年に高速道路が開通し、現在は欧州自動車道路E22号、A7号が通っている。
その道をドライブしつつ軽く観光でもしようと誘われたアルレシアは、オランダが運転する車を見て顔をひきつらせた。
「え…マジか」
「はよ乗りねま」
真っ赤な車体のオープンカー。典型的な感じである。そしてオランダはジーンズに白シャツ、いつものストールとラフな格好だ。夏の欧州人らしい姿である。
「真夏にオープンカーって…」
「…嫌か?」
「そういうんじゃないけど…ふっ、お前、結構形から入ることあるよな」
不思議なところの多いオランダだが、たまにこういう典型的な形から行動することもある。それが可愛らしくて、アルレシアは笑いながら助手席に座る。
「ロックガンガン流せよ、ダーリン」
「…任せとき」
そして二人は、アムステルダムから一路A7道路に乗り、アフシュライトダイクを目指して真夏の日差しの下をドライブに出た。国内にほとんど山がない低地だけあって、広大な平原が延々と広がる中を走るのは気分がいい。
アルレシアもサングラスをして薄暗い視界ではあるが、左隣のオランダがストールをはためかせて運転しているのはどこか輝いて見える。そういえば、自転車に乗るところばかり見ているので、こうしてじっくりオランダが運転しているところを見ること自体が珍しい。
それにしても、いかついオランダがサングラスをしてオープンカーを運転しているのはチンピラにしか見えないのは黙っていようと思うアルレシアだった。
港湾の田舎町を過ぎて、ようやく車はアフシュライトダイクに入る。ここからこの堤防を渡り切るのに、20分から25分ほどかかる。
5分も走れば、もともと地面が低いこともあって、あっという間に水平線しか見えなくなり、岸が海に隠れる。
A7道路の左側は土手のように小高くなっており、一段高いところをE22道路が走る。そのため、北海は見えない。右手のアイセル湖だけが視界に入っていた。
潮の香りと照り付ける太陽を感じて道路をかっ飛ばすのは気分がよく、それをさらに促進するようにロック音楽が響く。オープンカーで走るのにうってつけの場所だった。